畜産における有機JAS規格スタートとその後(自然と農業編集部)

2. 家畜排泄物の適切な処理

次に、家畜の排泄物処理の問題。自然循環機能の維持増進を図ることが求められる有機畜産で、家畜排泄物が環境汚染につながるような処理がなされるようであれば、有機畜産自体の存在が問われかねません。認定を取得するのであれば、家畜排泄物を堆肥化し、地域の耕種農家等で使用してもらうような自然循環機能を促す仕組みづくりが求められるわけです。また、家畜の排泄物処理については、有機畜産に限らず畜産業における重要な課題で、有機JAS規格とは関係なく、環境三法が完全施行されてから家畜排泄物を環境に負荷をかけない形で処理することが生産者には義務付けられています。

 

3. 畜産に精通した検査員の養成

第3に、有機畜産の登録認定機関が不足していることがあります。以前、有機農産物の検査・認証制度がスタートした際には、検査員が質・量ともに不足する事態が発生しました。今回、新たに有機畜産の認定制度がスタートすることで、同様の問題が発生していると予想されます。有機畜産を認定するためには、登録認定機関もあらたに行政に申請しなおす必要がありますが、国内の有機畜産に関して現在認定できる団体は47ある登録認定機関のうち10団体にすぎません。これは、農産物とは違った畜産分野に関する見識が検査員に新たに必要とされるためです。限られた認定団体が新たな規格に対して慎重に認定作業を進めていることも、畜産分野でのJAS規格取得が遅れている理由といえそうです。

 

4. 有機畜産は表示が問題

さらに有機畜産の拡がりにブレーキをかけかねないのが、表示の問題です。実は畜産物への「有機」や「オーガニック」といった表示はJAS規格をとったもののみに許されているわけではなく、規格をとらなくても「有機」「オーガニック」の表示が可能です。この現状が有機食品の担当者を混乱させています。
これは、畜産物が農産物と違って指定農林物資ではないためです。指定農林物資となるためにはオーガニックと非オーガニックとの間で市場での混乱が起きることが前提となります。まだ市場に多く流通していない有機畜産ですから、市場で混乱はしていないと判断され指定農林物資にはされておらず、表示についてJAS規格をとっていないものについてもオーガニックの表示がなされて良いことになってしまっているのです。
ただ、表示の適正化を定めた景表法などに抵触する恐れがあるため、根拠なく「有機」や「オーガニック」と名乗る畜産物を流通させることは問題がないとはいえません。
以上、畜産分野における有機JAS規格の現状をみてきましたが、昨年来のLOHASを中心とした環境、健康志向の消費が進むことや海外でもオーガニック市場が依然拡大していることなどから、日本市場でも有機畜産への期待は大きいと考えています。これまでいくつか挙げてきた課題をいかにクリアしていくかが今後各社に問われていくのではないでしょうか。

 

出典:BioFach Japan 2006 公式ガイドブック
執筆者:株式会社 木香書房「自然と農業」編集部

PROFILE:
1924年に設立し、80年を超える歴史を持つ農業関係出版社。定期刊行物として、環境保全型農業を目指し人々を対象とした季刊「自然と農業」を発行。またその他の刊行物として養鶏関係の技術専門誌である月刊「鶏の研究」がある。定期的に、オーガニック関係の海外視察や、食に関するセミナーを開催している。幅広い視点から企画・取材し、農業の発展に寄与できるような活動を念頭におく。

URL: http://www.kikoushobou.net/

《関連キーワード》

人気のWebコンテンツはこちらです

お問い合わせ