農業分野からの脱炭素対策。山梨県・果樹農業がチャレンジする「4パーミル・イニシアチブ」

全ての画像提供:山梨県(無断使用・無断転載はお断りします)

2015年のCOP21(国連気象変動枠組条約締結国会議)において、フランス政府が主導で提唱した「4パーミル・イニシアチブ」。パーミルは全体を千とする千分率の単位。パーセントと同じく割合を示す単位です。分かりづらく感じるかもしれませんが「4パーミルは1000分の4」なので、「4パーミル・イニシアチブ」とは、土壌の炭素を0.4%増やす取り組みということになります。

年々、二酸化炭素濃度の増加による地球温暖化への懸念が強まり、実効性の高い温室効果ガス削減の取り組みが求められています。脱炭素対策は企業中心に行われていますが、日本でも農業分野からの取り組みが始まっています。

果樹園の特徴を活かした古くて新しい山梨県の脱炭素対策

2020年4月、山梨県は農業分野から脱炭素社会の実現を目指す「4パーミル・イニシアチブ」へ、日本の自治体で最初に参加しました。2022年9月時点で、日本を含む737の国や国際機関が参画しています。
※山梨県の「4パーミル・イニシアチブ」の取り組みについては、次のYouTube動画をご覧ください。https://youtu.be/-ZcugMDGukQ

山梨県は、果樹栽培に適した扇状地が多い県。ぶどう、もも、すももは、栽培面積・生産量ともに日本一となっています。その果樹園で行われている「4パーミル・イニシアチブ」。

 具体的にはどのような取り組みが行われているのか、山梨県農政部販売輸出支援課の塩野正和(しおの まさかず)さんと同部農業技術課の國友義博(くにとも よしひろ)さんへお話をうかがいました。(以降、敬称略)

炭化器でバイオ炭がつくられる
※剪定枝等生物資源を炭化した炭を「バイオ炭」と呼びます。

山梨県の果樹園では、どのような方法で、炭素の土壌貯留が行われているのでしょうか。

國友「以前から、農家さんによって山梨県の果樹園の特徴を活かした方法が取り入れられていました。堆肥など有機物の投入や草生栽培・緑肥、剪定枝チップの堆肥化などです。いずれも、一部は微生物によって分解され、二酸化炭素として大気中に放出されてしまいますが、炭素を貯留する効果が期待できます」

國友「さらに、土壌への炭素貯留方法として剪定枝の炭化に着目しました。果樹は剪定作業をして樹形を整えるのですが、この光合成によってたくさんの炭素を蓄積している剪定枝が炭素の貯留源になります。毎年出る剪定枝を燃やし灰にするのではなく、炭にして農地に戻すんです」

炭素を貯留するバイオ炭

炭化した剪定枝は土壌で分解されにくい性質があり、地球温暖化の抑制に貢献するだけでなく、土壌を豊かにしてくれます。

 國友「バイオ炭は土壌改良資材として古くから利用されてきました。果樹の剪定枝を炭にして、土壌に炭素を貯留する方法は、より脱炭素に貢献できる古くて新しい方法です。バイオ炭を投入した農地で、多くの炭素を長期間土壌中に貯留できるという科学的な実証も進んでいます」

 試験研究では、効果的な炭化方法、炭素貯留量の推定、バイオ炭投入による土壌改良効果、果樹の生育への影響の検討なども行われています。

社会貢献につながるエシカル消費者へのアプローチ

環境に配慮されたおいしいフルーツ

土壌に炭素を貯留する取り組みにより生産された、ぶどうやももなどの農産物への認証制度も創設されました。

國友「認証制度の区分はアチーブメント「実績(成果)認証」とエフォート「取組(計画)認証」とあります。アチーブメントは土壌への炭素貯留量の実績に基づき認証、エフォートは実施する具体的な取組について目標を定め、土壌への炭素貯留量が確実に見込まれる計画を認証します。またそれぞれ、取組を行うほ場、生産された農産物等を認証します。認証する具体的な取組は草生栽培による雑草等の投入、堆肥等の有機物の投入、剪定枝等作物残渣の投入、剪定枝等のバイオ炭の投入です」

 2022年9月末現在の「やまなし4パーミル・イニシアチブ農産物等認証者・団体は83個人・団体にのぼり、現在の炭素の土壌貯留量は3493t/年となっています。

「やまなし4パーミル・イニシアチブ」農産物認証マーク

さらにPRにも力を注いでいます。アピールしているのは「脱炭素化社会の実現に貢献するくだもの」という価値。

 塩野「エシカル消費層を中心に、認知度向上を図るため、取り組みを紹介する動画をYouTubeに掲載するとともに、小売店で販売フェアを実施しました。品質が高く、おいしい山梨県産果実に、“地球温暖化対策に貢献する”という新たな価値を付加して、消費者へお届けしたいです」

 人気のシャインマスカットをはじめ、「4パーミル・イニシアチブ」の認証農産物のブランド化を進めていくそう。

山梨県産もも

2021年2月には、「4パーミル・イニシアチブ推進全国協議会」も発足されました。現在では、14 の地方公共団体、7つの研究機関、25の民間団体が参画しています。環境問題に配慮された取り組みは、農業高校での特別授業や小・中学校の自由研究にも取り上げられています。

 「剪定枝をバイオ炭にして自分の畑に戻す」ことは、廃棄するものを資源として活用する循環型農業のひとつ。比較的小規模な農家さんが多いという山梨県。その地に合った無理のないやり方で進められる農業分野からの「4パーミル・イニシアチブ」は、さらなる持続可能な社会の実現に向かっているようで、今後の展開が楽しみになりました。

 おいしい未来へ やまなし https://www.pref.yamanashi.jp/oishii-mirai/index.html

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