いま、有機って伸びているんですか?(作吉 むつ美)

さて、この動向にプラスの材料になる可能性をひめた新しい動きがあった。輸出に関する仕組みが新たに付加されたのだ。

ひとつは米国向け。2010年から、有機JASの登録認定機関が、NOP(米国オーガニックプログラム)による認証を行うことが可能となったのである。現在、2つの機関がそのサービスを開始している。
事業者にとっては、有機JASに一部の追加変更を行えば、一度の検査で同時に有機JAS とNOPの認証をえることができる。これまでは、外国の認証機関に申請しなければならなかった。手続きを直接外国の機関とやりとりしたり、日本に窓口があったとしても、書類が英文であったりと、不自由な面があった。これからは日本語ですべてのサービスを享受できるため、一農家での申請も容易になるはずだ。

 

また、EU向け輸出に対しても変化があった。昨年から検討されていたEU規格と有機JASの同等性の評価が定まり、13の有機JAS登録認定機関の名前が、めでたくCOMMISSION REGULATION (EU) No 471/2010に掲載された。この結果、有機JAS認証の製品が、有機JASの認証だけで、EUへの輸出ができるようになったのだ。認証そのものに新たな費用は発生しないので、事業者にとっては大きなメリットである。ただし、農産物はそのままであるが、加工食品については、原料が日本国産のものに限られるという制約がある。表2にある味噌や醤油のような製品のうち、輸出を行うような規模で生産している事業者のほとんどは、輸入原料を使って製品化しているはずだ。そうした業者は、EUに輸出するには、EUの認証を行う機関に認証を依頼するしかない。また、米の加工品として期待される日本酒も、有機JASの対象ではないため、同等性を利用できない。(有機日本酒をEUに輸出したければ、EU認証を直接うけなければならない)。

 

もとはといえば、1980年代の終わりに、日本の有機食品が海外で「有機」として販売できるように、と有機認証が始まった。それから10年。ついにJASの有機認証制度が、国境を越えるのに一役買うというところまで、こぎつけたわけだ。長く関わってきている者とすれば、感慨深いものがあるが、まだ単純にパスポートが発行されるわけではない。新たなビジネスチャンス、とこの制度に期待していた事業者も、この円高、不景気、そして制約事項により、思ったほど食指が動かないようだ。円高はどうしようもないが、国の制度は、その目的(ビジネスツールとしての認証)を果たすためにもっと有用な形をとれないものかと歯がゆい思いを抱えている。

 

しかし、円高を、制度を嘆いていても仕方ない。海外のマーケットの視察や現地での交渉は今がチャンスかもしれない。これから伸びの期待できるアジア諸国への高品質食品としての売り込みも考えられるのではないか。国内での普及販売はもとより、海外への進出により、有機生産を続けることができた、という事例もある。一つの角度からでなく、様々な可能性を探って、有機食品の生産、流通を継続して広げていってほしいと切に願う。

 

出典:BioFach Japan 2010 公式ガイドブック
執筆者:作吉 むつ美

PROFILE:
オーガニック検査員
1993年、IOIA(International Organic Inspectors Association)の検査員研修を受けたのち、日本・アジアを中心に検査活動を開始。1997年、日本オーガニック検査員協会設立。検査活動の傍ら、検査員育成、事業者向け研修などにも力をいれて活動。近年は、アジア各国での検査員研修での講師活動も始める。日本オーガニック検査員協会参与。JOIA/IOIA公認講師。

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