organicfromjapan_01_crayonhouse日本の有機農業の成長は依然緩慢ではあるものの、有機産品に対する需要は、20113月の東日本大震災以降も一貫して増加してきている。日本市場は、中国に次いでアジア最大市場の一つであり、ナチュラル/オーガニック製品には大きな可能性がある。最近の調査や見積りによると、現在の国産及び輸入された外国産のオーガニック食品の総額は、日本円で約1,800億円(約18億米ドル)に相当するという。これは驚くべき数字であるが、食品や飲料市場の全体からすれば、ごく僅かに過ぎない。

 

【写真:クレヨンハウス(東京)、オーガニック食品だけでなく、化粧品や繊維製品も販売。レストランも運営している】

 

organicfromjapan_02_products日本のオーガニック食品に対する需要の伸びは、これまで欧州やアジア諸国の成長スピードに比べ緩慢であった。主な障害は、スーパーや小売店で購入できるオーガニック食品の種類の幅や多様性が制限されており、特に価格が比較的高値であることが挙げられる。いくつかの例外を除き、オーガニック食品は国産や外国産を問わず、比較可能な慣行食品と比べ、2~3倍することもある。これは他のアジア諸国でも同様であり、価格差がずっと小さく(製品により20~30%、稀にそれ以上もある)、平均収入の人でもオーガニック製品を買える欧州や北米とは大きく異なっている。

 

【写真:日本ではオーガニック食品の種類が限られていることと、高値なことが普及の大きな障害になっている】

organicfromjapan_03_tokyoしかし、このような厳しい状況は、大手食品メーカーや小売店がオーガニックに着目し、多様な有機食品を扱うだけで大きく変わるであろう。このことがそう遠くない将来に起こりそうな兆候がすでにいくつかある。その大きな理由は、食品の安全と信頼できる原料の生産地についての食品メーカーや消費者の関心が増大していることだ。慣行であれ、有機であれ日本は常に輸入食品に大きく依存しており、そのため、国際的な批判や規制から生じる問題は避けなければならない。環太平洋連携協定(TPP)や有機製品同等性協定(EUとは2010年から、米国とは2014年1月から施行)など最近の交渉や協定はこれに対処するものである。

【写真:東京のような巨大都市では、オーガニック製品に対する需要は大きい】

organicfromjapan_04_restaurant2011年の東北大地震と原子力発電所の事故による放射能汚染の結果、広大な農地が破壊され、安全で健康な有機食品に対する意識と需要が高まった。現在、小規模店や専門店だけでなく、チェーンストアやスーパーでも広範な種類の有機製品を提供している。この傾向は、富裕層が暮らす市街地のショップから一般の主婦が買い物をする郊外へと広がってきている。紀伊国屋などいくつかの高級スーパーでは200種類以上の国内外の有機食品が陳列棚に並んでいる。

【写真:クレヨンハウスのレストランで有機産品のメニューを楽しむお客】

 

日本の有機市場が停滞している大きな理由は、日本人の中に有機産品に対する基本的な認識が普及していないことにあるといえる。農産物・加工食品を対象とする有機JAS制度導入後、12年以上が経過しても、その名称は日本人には依然としてあまり良く知られていない。最近でこそ消費者の有機JAS理解のプログラムが散見されるようになったとは言うものの、政府は、この状況を改善するための努力を十分してきたとはいえない。一方で、有機JAS認定マークを付けることができる産品の範囲は今や家畜物にまでも広がっている。しかし、魚や海産物、アルコール飲料は有機JAS認定制度から除外されている。食品以外の化粧品やオーガニックコットン製品も法律で定められた規制の対象外なので、一部でもオーガニック原料を使っていればオーガニックの表示がみられることも多い。(最近では第三者機関の認証で担保するケースも増えている)

日本では、同等性のあるEUや同等性を認められた国々からのオーガニック認証が付いた製品(写真を参照)が販売されるケースも増えている。有機JAS登録認定輸入業者が輸入すれば、多少時間や費用のかかる手続きに従わなければならないとはいえ、有機JASマークを付けて販売することは可能だ。今後は、これらの手続きがさらに簡素化されることが望まれている。

organic_jas【写真:有機JASのシールは、まだ良く知られていない】

農林水産省と連携するその外郭組織では、食品の安全や有機食品、その関連テーマに取り組んでいる。また、日本の有機農産物やその市場に関する徹底した調査を実施するための予算を確保し、2010年には有機農業とその産品を促進するための3ヵ年計画を開始した。農家/生産者と需要家/販売事業者をマッチングさせるための一環で、オーガニック見本市BioFach Japanの中にマッチングパビリオンが設置され、商談会や有機農業・有機製品理解の為のセミナーも実施された。

 

上記プロジェクトは国内市場に焦点を合わせたものだが、農水省や経産省が後援し、ジェトロが組織したもう一つのプロジェクトは、ニュルンベルクのオーガニック見本市BIOFACHに出展して海外市場を目指すものだ。

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【写真:ビオファジャパンで多くの関心を集める有機産品】

 

世界的なオーガニック・トレンドの中で日本もオーガニックに備えている。有機食品の未来は、主に消費者の選択にかかっている。より大量の(そして安価な)輸入により、有機食品や国内での加工用原材料の種類の幅は広がるだろう。他方、慣行農業と有機農業に関する状況は、いっそう厳しいものになる。日本の農業者は競争に直面し、高品質の産品を消費者の求めやすい価格で提供せざるを得ないだろう。このような状況を見て精力的な有機農家や加工業者は、野菜、米、その他の穀物が育ち、食品に加工し、安い土地と労賃を有利に生かせる海外に積極的に進出しようとしている。緑茶や醤油、酒、その他の有機産品は、和食ブームの海外では値段が多少高くても購入者が見つかるからだ。

 

GONの母体であるABCエンタープライズ㈱は、2011年にIFOAM Japanの委託で、日本の有機市場に関する初の総合的な報告書の英語版を作成・出版した。この報告書は、IFOAM Japanが2010年に発行した日本語版と3月の震災とその影響に関する補遺を基にしている。

2010年時点での日本の有機農業数、有機農家戸数、有機圃場面積は以下の通りである:

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出典:農林水産省資料

上に見られるように、全農地の僅かの圃場(0.4%)がかなりの数の有機農家によって耕作されていることがわかる。したがって、大半の農地は非常に小さく、競争力と適切な収入を保証する十分な広さの耕地は極めて少ないといえる。多くの欧州諸国やアジアの国々と異なり、日本では政府の支援が限られ、補助金も少なく有機農業者には厳しい現実である。

 

生産以降の流れを見てみると、有機農産品の販売とその流通は高コストであり、その結果、小売価格は高くなっている。日本起源の提携システム(生産者から直接消費者へ契約販売)は引き続き機能しているが、現在では、大地を守る会、らでぃっしゅぼーや、オイシックスなど会員制宅配や大型の生活協同組合と提携するか、あるいはそれらに吸収されて行われている。これらの組織は多くの会員を有し、東日本大震災以降はむしろ売上げを伸ばしている。取り扱う有機製品は国内産に集中しているが、輸入産品や、有機JAS認証を取得していないオーガニック産品や特栽、その他のナチュラル製品も提供している。

生活クラブや多くの地域支部が形成されている生活協同組合では、数千のナチュラル及びオーガニックアイテムを含む“健康な”製品を広範に提供している。

takuhai.jpg    出典:2012年:インターネット収集データより

2011年の東日本大震災以降、多くの消費者は、原発・環境問題、エコ、そしてオーガニックに一層の関心を持つようになった。輸入業者、流通業者、そして小売店は、この傾向をいち早く掴み、今日では様々な種類のオーガニック製品を扱うようになった。こうして消費者は、専門店はもちろん、デパートやスーパー、セレクトショップなど、より多様な店舗でオーガニック製品を入手できるようになった。このような状況では、日本では生産されていない産品(コーヒーやスパイスなど)に対する需要も増え、国内生産だけでは、増大する量や種類に対する要望に追いつかなくなるかも知れない。これまで日本の大手食品メーカーはオーガニック食品の供給はほとんど行ってこなかった。しかし、需要が増大し、多くの店舗を持つ大型小売店がより多くの有機食品を扱うようになれば、状況は変わるだろう。大手食品メーカーが参入すれば、国内産の有機原料だけでは足りず輸入が増えるだろうが、このことは、海外の生産者や輸出業者にとっては、良きチャンスとなろう。

2020年に東京でオリンピックが開催されることが決定した。日本のオーガニック関係者の間では、「オリンピックの選手村をオーガニックで!」という声が上がっている。オリンピックを契機に日本でもオーガニックを広く覚醒させようという願いである。それが実現すればGONでも国際的なPRを担当したいものだと考えている。

 

執筆:ハインツ・W・クールマン(元BioFach Japan事務局代表)

(出典:農水省、国際機関、メディア、写真提供:秀明自然農法ネットワークなど)