有機認証の価値と販売チャンネルの多様化(作吉 むつ美)

私は現在、静岡県東部に住んでいる。各地に出かけることが多く、地元交流はほとんどなし。越してきて1年あまりたち、ようやく、“有機”に関わる顔をもつ人たちとの出会いがあった。それは、「中山間地での有機農業」をビジネスとして軌道にのせた元フレンチレストランのシェフである。

「ぼくは、百姓ではなく、百商をめざす」「生産にかけるエネルギーは3割、販売や企画にかけるエネルギーが7割」。

最近、雑誌や新聞では積極的に農業ビジネスの成功者たちを紹介したり、農業関連の書籍の特集を組んでいる。誰か仕掛け人がいるのかと想像し、楽しんでいる。しかし、そうしたメディアでは、「有機農業」を手法として評価し、推奨しているようにはみえるが、「有機認証」については言及がほとんどない。有機認証取得による成功者が多ければ、もっと有機JASとしての格付量は飛躍するはずだが、農水省の平成19年の統計では0.18%にすぎない。そもそも、有機認証は、大量生産、大量流通を効果的に行うために有効なもの。なかなかビジネスとして付加価値を付与するにはいたってないということか。

 

先に紹介した農家は、まだ有機認証は必要がないという。自分の名前がブランドとして信頼を確保しているからだ。宅配が7割を占めているのだから、無理もない。古い言葉だが、「顔がみえる関係」のなかで成り立っているのだ。しかし、彼は今後、加工食品の開発なども手がけようと計画している。そのときには、ビジネスのツールとして有機認証が必要になることがあるかもしれないという。とても適切な判断である。

 

また、私が時々出かける地元の大型スーパーでは「有機JAS認証を取得していません」という断り書きつきのコーナーがある。グループの名前は、有機的な雰囲気そのままで、生産者の顔写真付で野菜の前にポップが並び、販売されている。個人的には、名前や顔写真があっても何も知らないので、地元産だという以外、インパクトはない。どうやって作ったのかの生産情報が何もないのだ。でも、いかにも安全な野菜といったイメージが醸しだされている。

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