有機認証の価値と販売チャンネルの多様化(作吉 むつ美)

これらの動きにより、あまりに怪しげな業者が淘汰され、適切な生産管理ができる業者たちに発展してもらいたいものである。ただ、個人的にはやみくもに厳しい規制(=有機性とあまり関係のない)を繊維製品や化粧品に求めないですむことを期待している。認証は、大量生産大量流通の製品が、間違った舵取りをしないための道しるべになればいい。たとえば、日本の繊維業界には、長い年月をかけて信頼関係を築き上げ、心ある製品を作ってきた中小零細のメーカーがたくさん存在している。多品種高品質の製品があるのは、日本の繊維業界の力だと思う。認証により、ただでさえ高い品物に手が届かなくなったり、キメ細やかな製品づくりが廃れるようなことは望むところではない

 

言いかえれば、認証の手法にも、そろそろ次のアイデアが必要だと考える。認証は、もともと、ビジネス支援のためのツールだ。必要なのは、明確な基準と消費者への信頼性の担保であり、検査や認証の仕組みは既存の枠にしばられず、もっと工夫してよいと思う。

 

では最後に販売について少し。今更ではあるが、「ネット通販」は、有機ビジネスにとっても、顧客を増やす重要なチャンネルである。先に紹介した地元の有機農家は、「ネットがなければ、このビジネスは成功しなかっただろう」という。多大なコストをかけずとも、自らの農や食への思いのたけを語り、農場の写真を載せることができる。これが信頼を獲得する素となっているのだ。私も、検査前の準備として、事業者のホームページをチェックするが、最近農場でも生育情報をこまめに写真付で公開しているところが増えてきたという印象をうける。

 

有機製品の多くには、作り手の物語や思いがたくさん詰まっていることが多い。また、製品の特徴、使い方などもネットを利用すれば多面的に紹介してくことが可能だ。オーガニックコスメの顧客が、ついでに有機コーヒーを、野菜や米の注文のほかにオーガニックコットンタオルをと、店舗に比べて制約がない分、有利な面もあるだろう。

 

とはいえ、一消費者とすれば、端から端まで情報を読み込み、ネットサーフィンをしていたら、いつまでたっても買い物は終わらない。ヘビーユーザーにはきっと“お気に入り”がいくつかあるはずだ。

 

いじわるな私は、時々自然食品店で(自分が検査したこともある商品を)購入するとき店員さんにその商品について質問をする。その対応で、“お気に入り”になるかどうか決めることもある。ネットでは、知っているものを注文することが多いので、あまり問い合わせの経験はないが、やはり説明内容を(検査のごとく)チェックしている自分がいる。

 

販売チャンネルがどのように広がっていっても、やはりきちんとした知識をもって販売するプロが、その専門性をアピールできるチャンスかもしれない。自分の財布が許す限り、そんな人たちから買いたいし、買い支えたいと思う。

 

出典:BioFach Japan 2009 公式ガイドブック
執筆者:作吉 むつ美

PROFILE:
オーガニック検査員
1993年、IOIA(International Organic Inspectors Association)の検査員研修を受けたのち、日本・アジアを中心に検査活動を開始。1997年、日本オーガニック検査員協会設立。検査活動の傍ら、検査員育成、事業者向け研修などにも力をいれて活動。近年は、アジア各国での検査員研修での講師活動も始める。日本オーガニック検査員協会参与。JOIA/IOIA公認講師。

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