大震災・原発事故を乗り越える有機農業
3月11日、東北地方を中心とした東日本地域を、千年に一度の巨大地震と甚大な津波が襲いました。岩手、宮城、福島などに激甚な被害を出した東日本大震災ですが、福島では東京電力の原子力発電所では、地震と津波の影響で相次いで水素爆発が発生しました。その結果、福島、茨城、群馬、神奈川、静岡などの各県では、6月中にも暫定基準値(セシウム : 500ベクレル)を超える放射性物質が、製茶を含む農産物や水産物からも検出されました。今回の原発事故で、農産物の一大生産地である東日本の農業、畜産、水産業などの第一次産業は深刻な打撃を受けています。また、国による検査体制があるとはいえ、関東圏で生産される野菜や精肉、卵などを食べる首都圏を中心とした消費者に内部被曝の可能性が高まっています。
この状況を受けて、8月末に東京の千駄ヶ谷で日本有機農業研究会(日有研 : JOAA)がシンポジウムを開催しました。テーマは「大震災・原発事故を乗り越える有機農業」。今年40周年を迎える日有研の副理事長、魚住道郎氏が東日本大震災による地震と津波被害を受けた福島などへの支援活動の報告やご自身の実践から「腐植と放射能の作物移行にみる有機農業の可能性」などについて報告されました。具体的には、「汚染度の低い地域では、腐食を活かした有機農業の土壌は、放射性セシウムを団粒構造内に吸着することができる。そのことで農作物への移行を少なく抑えることができる可能性がある」というお話をされていました(※魚住さんは韓国のOWCでも同じ内容の講演を英語でされました)。また、被災地である福島や宮城や東京都内でも、市民らによる食品の自主検査が始まっています。
これは、福島第一原発による放射能汚染の事故の後、初めて聞いた希望を感じるニュースでした。また、関東に本社を置く大地を守る会やらでぃっしゅぼーやなどの有機農産物系の宅配企業は放射性物質の自主検査を行っていますが、最近ではかなり検出量が減ってきているようです。大阪に本社のあるオーガニック食品流通企業のビオマーケットによると、首都圏の直営店では「放射能汚染がないこと(自主検査で不検出)」を掲示した有機農産物やオーガニック食品の売上げが伸びているそうです。特に首都圏でホットスポットが発見された地域周辺のお店の売上げが伸びているといいます。
ヨーロッパでは、1986年にチェルノブイリで起きた原発事故により食品汚染が広がりました。その影響で食品の安全性に対して敏感になった消費者が、すでに放射能汚染が広がってしまった分、それ以外の(残留農薬などの)健康リスクはできる限り下げようと考えるようになり、オーガニック食品や有機農業が注目されるきっかけになったといわれています。個人的には、3月11日の福島原発の事故以降、日本の有機農業はどうなってしまうのかと心配していました。お隣の韓国をはじめ世界中の有機農業やオーガニック食品の関係者も、日本の有機農業と放射能汚染について心配しています。今回のビオファジャパンでは、その仲間たちに、福島周辺の有機農業関係者はまだまだ厳しい状況に置かれているけれど、その一方では明るい兆しも現れ始めていることを知ってもらえれば思っています。
出典:BioFach Japan 2008 公式ガイドブック
執筆者:郡山 昌也
PROFILE:
国際NGO「IFOAM(アイフォーム : 国際有機農業運動連盟)」元世界理事(2008-2011)。らでぃっしゅぼーや株式会社元広報担当。グローバル政治学修士(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE))。学術修士(環境政治:早稲田大学大学院)。同大学院博士課程在学。名古屋産業大学非常勤講師
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