2015年3月27日に開催された日本オーガニック農産物協会総会で谷口 葉子 氏(宮城大学食産業学部助教)の『有機農業の新しい動きについて』と題した講演が行われた。もう一つの有機認証システムである参加型認証システム(PGS)について概観が一望できるわかりやすい内容だったので、ここで簡潔にご紹介する。なお、谷口氏はGONの一般向けサイトにドイツのオーガニックの見本市リポートを寄稿してくださったこともある。
さて、近年、有機農業におけるPGSへの関心が高まっている。昨年10月のIFOAM(世界有機農業運動連盟)の世界オーガニック会議2014において、最も議題に上がったのもPGSであった。
PGSとは、Participatory Guarantee Systemの略で、参加型有機認証システムとも呼べるもの。IFOAMの定義によれば地域に焦点を当てた有機農産物の品質保証システムで、信頼、社会的ネットワーク、知識の交換ならびに生産者と消費者との交流を基盤に、消費者の積極的な参加活動に基づいて生産者を認定する。
ご存知のように、現在の有機認証のような第三者認証では、膨大な資料作成と検査員による年次検査を必要とし、コストもかかる。そのため「有機」の認証を取れない零細農家も多い。したがって、第三者認証は有機農業運動を阻害しているとの批判もあるほどだ。
両者の違いを端的に言うと下記の通り:
PGS |
第三者認証 |
・必要最小限の書類提出・ステークホルダーによる頻繁な訪問と口頭質問・訪問時、技術的アドバイス可能・システムは参加型で作る |
・膨大な量の書類作成・検査員による実地検査(検査も実質的に書類ベース)・検査時、技術的アドバイス(コンサル)不可・システムは国が作る |
IFOAMがあげるPGSのメリット
1. 小規模農家の市場参入の改善
認証料は低く抑えられ、書類作成の手間も削減されているので、文字の読めない農家でも認証取得が可能。自作の農産物を有機として販売できるようになる。
2. 消費者への教育効果・意識向上効果
審査プロセスへの参加で、消費者は有機の難しさや醍醐味を知り、有機農業への共感や関心が強化される。
3. 直接販売等、ローカル流通の発展
PGSの取り組みの中から人的交流が生まれ、それを通して地域内での直接売買の輪が広がる
4. エンパワーメント*
PGSの運営や認証システムへの関わりで当事者意識が醸成され、関係者の積極姿勢や協調姿勢が高められる。すなわち、地域の信頼や結びつきが強化される。
*社会的弱者に夢や希望を与え、勇気づけ、人が本来持っているすばらしい、生きる力を湧き出させること
PGSの広がり
PGSを最も早期に開始したのはフランスのNature et Progrès(ナチュ-ル・エ・プログレ)という団体。1980年代に認証までスタートさせていた。ブラジルやチリでも80~90年代に開始され、IFOAMのデータによると2000年以降急増し、2014年現在、50の団体、認定事業者は49,000を数えるという。
取り組み地域は次のようになっている:
中南米:ブラジル、ボリビア、チリ、コスタリカ
アジア:インド、フィリピン、ベトナム、インドネシア、韓国
アフリカ:南アフリカ、ナミビア
先進国:フランス、カナダ、アメリカ、イギリス、ニュージーランド
日本におけるPGS的取り組みとしては、オーガニックフェスタinアキタにて有機JASに代わる「秋田方式」を採用、パルシステム生協連合会では消費者(組合員)が現地に赴き確認業務を行う「公開確認会」を実施したことが挙げられる。
PGSの制度的位置づけ
多くの国では第三者認証が唯一の認証手段なので、PGSによる認証を受けても「有機」と表示したり、国が定める認証ロゴマークは貼付できない。
現在、PGS認証を認めている国はブラジル(ただし、直接販売に限る)、コスタリカ、ナミビア、インド
国内市場では第三者認証が義務づけられていないオーストラリアやニュージーランドではPGS認証による「有機」表示は可能だが、国が定める有機ロゴマークの使用はできない。
直接販売での第三者認証を免除されているのはウルグアイ、チリ。したがってこれらの国ではPGSによる有機認証可能である。
もともと有機農業運動は草の根で始まり、これに携わっているものは誰でも有機と名乗ってよかったものが、法制化され、従来の有機農家が有機と名乗れなくなった。PGSは第三者認証よりハードルは低いが、第三者認証に劣らない品質保証能力があるのか、コンプライアンスには何が必要か。状況と認証手法を関連させた品質保証のあり方を考える時に来ている。
また、オーガニックには、「ローカル」「フェアトレード」「アニマルウェルフェア」等、オーガニックの規準では捕捉されていない価値を取り込む動きも加速している。そこから、「ビヨンド・オーガニック」や「オーガニック・ビヨンド」といったスローガンも生まれてきている。自分の納得できる有機は何か、有機農業の運動そのもののこれから向かっていく発展の方向性を考えていく必要がある。
参考資料:
木香書房「自然と農業」No.75:「世界オーガニック会議2014 イスタンブールにて開催される」
木香書房「自然と農業」No.76:「参加型保証システム(PGS)の仕組みと現状」
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