江戸時代までは、酒・醤油・味噌・味醂など、和食の基礎調味料はすべて木桶でつくられていました。その後、費用対効果が合わないという理由で、減少の一途をたどり、醤油業界においては、全体の1%以下まで落ち込んでいるそう。(参考:木桶職人復活プロジェクト)
大正後期創業、今年で101年となる福岡県飯塚市にある「金芳醬油釀造元」。「金芳醬油釀造元」では、大豆・小麦は九州産の農薬不使用で栽培されたもの、天日塩にはオーストラリア産のシャークベイソルトを使って醤油造りが行われています。
「金芳醬油釀造元」で一度途絶えていた「木桶醤油」を33年ぶりに復活させるプロジェクトがスタート。2月21日、初めて木桶に麹を投入する「払い込み」にうかがいました。その貴重な体験をお伝えします。
伝統の木桶文化を復活させ自然環境にも配慮したい
金芳醬油醸造元次期4代目当主 奥田桂三氏
「金芳醬油釀造元」では、33年前に炭鉱の地盤沈下の影響から蔵を建て替え、木桶を廃止し、FRP 樹脂タンクに切り替えられていました。次期4代目当主の奥田桂三(おくだ けいぞう)さんは、「ものづくりにこだわるのであれば、日本伝統の木桶仕込みを復活させなくてはならない」と決意。
小豆島では、「木桶」と「木桶職人」を増やしていくことを目的に、木桶仕込みを続けている生産者さんや関係者などが集まり、毎年1月に新桶づくりが行われています。「金芳醬油釀造元」の木桶も、小豆島の「木桶職人復活プロジェクト」から購入したもの。
奥にあるのが3600ℓの木桶
5年前に別府大学発酵食品学科を卒業した奥田桂三さんが、まず取りかかったのは、添加物不使用の天然素材シリーズの醤油。その後、醤油をつくる原料を栽培期間中農薬不使用の九州産大豆・小麦・天日塩へと切り替えていきました。さらには、FRP 樹脂製のタンクではなく木桶仕込みを復活させることで、自然環境にも優しいものづくりをしようと挑戦を続けたのです。
150年使えるという木桶。新桶は、まず日本酒製造に使われ、その後で醤油製造、味噌製造、醸造酢へとリサイクルされます。その度に、「蔵付き」と呼ばれる土着の菌が住み着いて、時と共に馴染みながら、その場所独自の味へと変化していきます。木桶自体が生き物であり、自然の循環の中にいるようです。「金芳醬油釀造元」の木桶は、吉野杉でつくられ13年経ったものだそう。
湿度72%以上の麹室の中
醤油造りにはたくさんの工程がありますが、「払い込み」は完成した麹菌を室から木桶に入れる作業。湿度が高い麹菌の発酵部屋、「室」での作業は大変です。3日間手を抜かず、夜中も気をぬけない状況だとか。
黄色の麹菌が大豆の周囲にたくさん!
いよいよ、塩水(汲み上げた地下天然水)が入った木桶の中に麹を入れる作業へ。
バケツリレーで麹を木桶へ
払い込んで攪拌するのも力仕事
「払い込み」が終わったばかりの木桶にいるのは、これからお醤油へと成長していく赤ちゃんモロミ。空気を送りながら撹拌して、発酵・熟成させていく過程は、愛おしいものだそう。
奇跡的に33年前の蔵で使っていた木桶の底板が見つかったため、今回仕込んだ木桶に添えて置くことによって、 当時の菌と味を復活させることも期待されています。今回体験したのは、木桶仕込みのほんの一部。手間暇をかけて、お醤油になるのは2年後。どんなお醤油が完成するのか、待ち遠しくも楽しみな時間です。
金芳醬油醸造元 https://kaneyoshi.co/
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執筆者:奥田 景子 ライター(エシカルファッション、フェアトレ-ドなど)。福岡県生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業後スタイリスト。以降雑誌を中心にしたスタイリスト。社会的なことに興味を持ち、大学院で環境マネジメントを学ぶ。理学修士を取得。2013年から福岡を拠点に移してライターとして活動中。 |