サステナビリティと教育をむすび、子ども達の未来を考える。英語と想像力、楽しさを伝える「山内ひさ子さんの絵本」

子どもの頃、絵本に夢中になった経験を持つ人も多いのでは。喜びや発見、驚きをもたらしてくれる絵本は、豊かな心や幸せを感じる心を育み、多様性を尊重し持続可能な社会へと導いていくと考えられます。

一方で、グローバル化と少子高齢化が進む中で、初等教育の重要性は高まっています。2020年4月からは、小学校3年生から英語活動が、5年生からは英語が教科として必修化され、日本でも小学校における英語教育が本格化しています。

英語教育者による、日本語と英語を同時に学べる絵本は、まだ少ないのではないでしょうか。そこで、子ども達が英語に触れることができる絵本と、その興味深い試みを紹介します。

元長崎県立大学教授「山内ひさ子(やまうち ひさこ)」さんは、自作の絵本の英語と日本語での読み聞かせ授業を、ボランティアで福岡県内や熊本県の小学校で行っています。

作者の山内ひさ子さん
福岡県久留米市出身。福岡市在住。元長崎県立大学教授。
(一社)大学英語教育学会顧問。文学博士。
現在、福岡市立三筑小学校サポーター。日本語と英語の絵本の創作と、
英日両語による読み聞かせ授業にチャレンジ中。

山内さんが絵本づくりに取りかかったのは、2020年のコロナ禍のことでした。2021年12月に、おばあさんの庭にミカンを食べに集まってくるたくさんの鳥たちの絵本「おばあさんとミカンと小鳥たち」の第一弾と第二弾を出版。続いて2023年2月に英語版を。愛情に満ちた子育てと、巣立ちの厳しさを考える「カラスの親子」。そして2024年には、日本語と英語を並記した「お花とちょうちょう」が発売されました。

飽きない工夫。楽しく学ぶ読み聞かせ授業

英語版「おばあさんとミカンと小鳥たち 1」:1,320円(税込)
文:山内ひさ子/絵:小野久子

―――絵本の作成を始めたのは退職後のことなんですね。

「そうです。ちょうどコロナで外出自粛。どこにも行けず時間があったので、自宅の庭にある『ミカン』を切って窓の外のテーブルの上に置いてみたんですよ。そうしたら、いろいろな鳥が食べに来て。それを1日中眺めていました。その様子が面白くて写真を撮ってみました。曇りの日、晴れの日、また朝や夕方など、たくさん撮りました。それで、写真を並べて何か話をつくったら面白いのでは? と思いました。イラストレーターの尾野さんに絵を描いてもらって、パワーポイントにして授業に使っているんです」

 

―――授業はどのように行われているのですか?

「最初に挨拶と自己紹介を英語と日本語でしてから、絵本を教室の大きなスクリーンで見せます。英語版を読んでから日本語版へ。2、3ページぐらい進んだところで、ミカンの写真を見せるわけです。『ミカンがたくさん実っているでしょう?』と言って。そして『全部でいくつ実っているでしょう』とクイズを出すんです。中学年だと3つくらいの選択肢から選べるように、例えば、50個ぐらい、100個ぐらい、200個ぐらいと選択式にして、手を挙げてもらいます。

高学年では、『自分で考えて言ってみて!』と提案します。『100個ぐらいかなぁ』、『もっと多いよ』、『150個くらいかも…』など、たくさんの意見が出ます。そして、『実は何個なのよ』と答えを教えます。そういう風に対話しながら進めています」

 

―――子ども達の生き生きとした様子が伝わってきます。楽しそうな授業ですね!

「絵本では最初にメジロが出てくるのですが、メジロの写真を見せて『名前を聞いたことあるよね?』と。
次にウグイスが出てきます。『どんな鳴き方をするか知ってる?』、『ウグイスはとても恥ずかしがりやで隠れてなかなか出てこないよ』。
『みんなの中で恥ずかしがり屋の人いる?』、『スズメとメジロが一緒に食べているけれど、本当にそんなこともあるのよ』など言いながら。そんな話を、英語と日本語で交互に進めています」

―――低学年と高学年の違いはありますか?

「1,2年生では日本語を先に話し、その後に英語で話します。使っているバイリンガル絵本も日本語から英語の順になっています。中学年からは英語から日本語の順で話を進めます。高学年のクラスでは、使う英語の量を中学年より増やしています。

4年生ぐらいになると、実物の小鳥の写真見せたら『先生、これノンフィクションですか』って言うんです。 『おー、すごいね』と思いました(笑)。『おばあさんとミカンと小鳥たち』では、最後にヒヨドリが来てみんな逃げちゃった。『さて、おばあさんはどうするでしょうか』で終わりにしているんです。最後はどうしたら良いと思うか、1人ではなく2人か3人で一緒に考えてみてと、5分くらい考えてもらいます。そして良い案ができたら発表してもらいます。『日本語でも良いし、英語ができれば英語でもいいよ』ということにして。子供たちの体験によっていろいろな案が出てくるんですね」

 

―――具体的にどんな案なんでしょうか。

「例えば、何とかしてヒヨドリを追っ払うとか、捕まえるとか。ヒヨドリ用と小鳥用のテーブルをつくるとか。そういう話を聞くと面白いですね。決まった答えはないんです。続きの絵本は学校の図書室に置いてあるから、見ていらっしゃいで終わりです」

 

―――単語の意味や発音などを教えることで工夫されているところはありますか?

「そうですね、バード(bird)など日本にはないア(/ɚ/)の発音は、みんなも『汚いアの音出してみて』と言ったりしています。低学年の場合は、日本語から英語の順に絵本を読みますが、『レッド(red)と聞こえた?』と英語が聞き取れたら手を挙げてもらったり、『イエス(Yes.)』と答えてもらったりしています。

中学年では、複数の鳥が描いた資料を渡し、見たことのある小鳥に〇をつけてもらいます。高学年では、小鳥の下に英語をつけているので、見たことのある小鳥を書いてもらっています。そして、他の人が書いたものではなく、自分が書いたものを一斉に読んでもらうと、みんなバラバラ。でもそれが大笑いで、本当に楽しそうなんです。

昨年出版した『お花とちょうちょう』では、ピンク(pink)やブルー(blue)など、いろいろな色のお花が出てきます。先に色の勉強をして、見本として実物の野菜や果物を見せながら色の練習をします。ホワイト(white)の見本として、大きな大根を見せました! これが一番子ども達に受けました(笑)。

塗り絵のページを1つ入れた方が良いと私の娘が言うので、絵を描いていただいている尾野さんにぬり絵のページもつくってもらいました」

 

―――子ども達が飽きないようにしているのですね。

「授業は45分なので、最後に振り返りがあったとしても40分くらいは楽しく学べるようにしています。それで、学年によってクイズを考えたりしているんです。子ども達も喜んで反応してくれます! 授業の『ふりかえりシート』に『英語は苦手(嫌い)だけど、今日(の授業)は楽しかった』というようなコメントをもらうと、とても嬉しく感じますね」

 

山内さんの授業は、とくに高学年では真面目な勉強だけでは逆効果と、楽しむことを優先しています。それは中学生の頃、英語の授業を楽しく思えず、どのように勉強して良いかもわからなかったという経験からくるもの。大学で教えていた時には、英語の授業で、どうやったら英語を好きになってもらえるのかを考え抜いたことも、読み聞かせ授業で役にたっていると言います。当時、アルファベット順に学生に英語のニックネームを付け、英語に親しみを持つ楽しい授業にしていました。

同時に「日本に住み、生活しているのであれば、日本語で筋の通った考えを持っていなければならない」という言葉も印象に残りました。

実際に、子ども達の英語への学習意欲を高める効果が出ています。
「振り返りシートで子ども達に5点評価をしてもらっていますが、1番目の質問の『今日の授業は楽しかった』という項目と、最後の質問項目の『もっと英語が上手になりたい』の結果はほぼ同じで、5点満点で平均4.5点くらい」と、山内先生は嬉しそうに語ります。子どもの好奇心をくみ取った授業が行われていると感じました。

さらに、目標は小学生1年生から6年生までの各学年に適した絵本を完成させることだとか。また、絵本に触れた子ども達が、身近な小鳥や花や蝶に気づき、観察するようになって欲しいと願っているそう。質の高い教育を目指すのは、持続可能な社会の必須項目。絵本というシンプルなツールで、子ども達が何を感じているのかを英語で伝えることができるようになるだけではなく、想像力を引き出し、多様性への理解度も高まっていきそうだと感じました。

書籍紹介(Picture Books by Hisako Yamauchi) http://grandmaoranges.jp/
『カラスの親子』の英語版が聞けます!

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