東日本大震災から4年目。3月14日・15日に実施された、見て・聞いて・体験する!福島県食の復興応援ツアー」。改めて原発事故に向き合うことになった“復興ツアー”への参加レポート二日目はホテルを9時20分に出発し、磐梯町にある榮川(エイセン)酒造株式会社へ向かいました。ここもすっぽり雪の中。お酒の醸造の説明はもちろん、東日本大震災後の救援活動のお話も伺いました。
1回目のレポートはこちらから
1月のツアー紹介記事はこちらから
榮川酒造では、震災直後から毎日、被災地の福島県浜通りにある病院へ、大きなタンクローリーでお酒を運んだのだそうです。病院にお酒なんて、と最初は驚かれたそうです。でも、その優しさと美味しさが患者さんたちを癒してくれたのでしょうね。
もともと会津若松市から始まった榮川酒造ですが、良水を求めて、醸造部門を磐梯山の麓に移転したのだそう。敷地の地下から湧き出る水は「磐梯西山麓湧水群の伏流水」で日本名水百選にも指定されています。名水で酒造りをしている蔵元は全国でも数軒しかなく、非常に珍しいのだとか。仕込みの各工程を見学したあとは、ショップで、蔵元ならではの「生しぼり」を試飲させてもらいました。間違いなく、おいしい!
榮川酒造で1時間ほど過ごしてバスに乗り込み移動して昼食です。昼食は地元の方からも熱い支持のある中山峠の「鞍手茶屋」。地元の野菜をふんだんに使った「けんちん手打ちうどん」と「麦とろ」で、体の芯まで温まります。
さて、腹ごしらえを終え、このツアーの目的でもある「食の安全講座」を受ける為に郡山商工会議所へ。
講師は東京工業大学 放射線総合センターの富田悟先生です。富田先生は南相馬市で市民の健康管理をしながら原子力災害対策アドバイザーとして郡山市役所の業務を支援し、一般市民との活動を続けている方で、東日本大震災からの復旧・復興に貢献したとして郡山市から表彰もされていらっしゃいます。
前半はまず、「放射線の基礎」と題して元素の周期律表から始まり、元素からの「放射線の発生」メカニズム、さらに「放射線の単位(ベクレルとシーベルト)」、「被ばくの経路」、「人体影響の発生機構」、「原子力被災地の問題」などの説明を通して放射能(線)について学びました。
放射性物質は自然界にも存在するが、五感で感じることができないため、多くの人は今まで接したことにない未知の存在と勘違いしている。でも、人は太古の昔より放射線に接してきた。科学的にリスクを考え、合理的に恐れることが重要とまとめられました。
やみくもに福島全体が放射線で汚染されていると恐れるのでなく、状況を冷静に、科学的に把握すべきということでしょうか。現在、人が生活している福島の被爆状況は健康被害が問題になるレベルではないそうです。
後半は、「福島の現状」のお話です。 福島県内の各地方と福島第一原発との位置関係が示された画像、さらに浜通り(北側)と中通り地方の汚染分布の画像。2013年11月現在の放射線量分布マップではやはり原発から20kmの範囲内で高い汚染状況を示していました。そして2014年6月〜8月の測定の南相馬市の被ばく状況。これは、南相馬市HPのデーターが記載され、年間のセシウムによる外部被ばくは年間0.8ミリシーベルト。日本の自然界からの被ばくは2.1ミリシーベルトとして、年間の総被ばく量は2.9ミリシーベルトという結果となっていました。
内部被ばくの現状では「植物等の初期汚染と現在の汚染」、「セシウムの土壌中存在状態」さらに「経根吸収は発生しない理由」や「放射性物質の種類により危険性が異なる(いわゆる半減期について)」、「食品規制値の成り立ち」など放射能特性や対策に関連したテーマでお話がありました。
ここで興味深かったのは「土壌に落ちたセシウムは粘土粒子にぴったりとくっついて離れないから植物は吸収できない。さらに月日が経つごとに、土との結合の強さが増す」。これにより半減期が30年と長い放射性セシウムの多くでも植物の経根吸収は発生しないんだそうです。
最後に「福島県内での取り組み」の説明がありました。
福島県はいかに食品の「安全・安心」を確保して消費者へ提供しているのか。
そのためにどのような検査を実施しているか。
県の農林水産物モニタリング検査、JAと出荷業者等による産地での自主検査、県等による加工食品ならびに流通する食品の検査、県・市町村による学校給食の検査、県による一般世帯の食事検査、県・市町村による自家消費農産物の検査まで、福島県の取り組みは多岐多重にわたります。この結果、福島県内で生産されている食品、野菜や水にも放射性セシウムはほとんど不検出。一部の流通していない食品には注意が必要だが、流通している農産物はすべて安全性が確認されていることを学びました。
主催のNPO法人あそんで学ぶ環境と科学倶楽部の中林さんは「これほど幾重もの検査で安全確認されている農産物が、流通の過程で買われていないことも、福島風評被害を解決するにあたってのキーになるのでは」とおっしゃってました。
確かに私たち消費者が最終的に購入する際の店頭では、あまり福島県産を目にしないですよね。
最後の訪問先は郡山市内にあるJA全農愛情館。ここでは地元の野菜を始め加工品、お惣菜やパン類、切り花、鉢花などが販売されていました。
▲JA全農愛情館入り口のドアにはこのマークが…。
福島の自然と風景、そこに暮らしている人々の純朴で温かい人柄を身近に感じ、原発事故がもたらした放射能汚染対策に積極的に取組んでいる福島県の努力を確認できたツアーでした。
榮川酒造株式会社
東京工業大学 放射線総合センター
富田 悟 Facebook
南相馬市HP
NPO法人あそんで学ぶ環境と科学倶楽部
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