福岡県・太宰府市にある「学校法人都築育英学園 リンデンホールスクール」は、国語以外の授業を英語で行うイマージョンプログラムを実施している小中高一貫校。小学部では、2004年設立当時から環境教育に力を注いでいる。
2021年4月から、小・中学部の給食を有機野菜や環境保全型農業の食材を使う、いわゆるオーガニック給食に転向。高等部では、選択制ではあるものの9割以上の生徒がオーガニック給食を選んでいるそう。オーガニック給食の取り組みは、自治体でも少しずつ増加傾向だが、子供達の食が及ぼす健康・精神面への影響は、最も配慮されなければならない問題だ。
福岡でオーガニック給食を推進する「ふくおか食育の会」の視察に同行することができた。今回、リンデンホールスクールのオーガニック給食の現状をレポートする。
環境問題から「食」へアプローチ
英語で学ぶ環境問題
視察は、まず教頭の「川崎恵(かわさき めぐみ)」さんによる説明から。
「『リンデンホールスクール小学部』は設立当時から、環境教育の特例校の申請をしました。児童達は、1年生の時から環境の勉強をしているので、虫や生き物など、すべてが豊かな環境の中でつながって、役に立つものだということを知っているんです」
グローバルな環境教育は、オーガニック野菜に目を向けるきっかけに。
「オーストラリアとハワイに姉妹校があるのですが、オンラインでつながって環境について自分たちに何ができるのか、学校の畑でどんな野菜をどんな風に育てているかなどを毎月のようにディスカッションしています」
コンポスト
残飯を子ども達がコンポストに入れて、それをリンデンファームの肥料にして美味しい野菜が育つ。そんなふうに、自然とのつながりを学ぶことで、食に関する知識を深め、子ども達自身が「食育」にも取りくめるようになる。
リンデンファーム
リンデンファームで採れる野菜に加えて、隣接する筑紫野市で有機農産物の販売や有機農園の支援を行う「オーガニックパパ」と「いしばし農園」が食材を提供。調理を任されているのは、「杉本幸太(すぎもと こうた)」さん。
「季節によっては同じような野菜ばかりの時期もありますが、味付けを工夫したりして美味しく食べられるようにしています。調味料にもできるだけこだわっていますが、原材料まではわからないところが課題ですね。地産地消を心がけていますが、端境期等は大阪の業者さんからも仕入れています」
お米は発芽玄米。夏場は冷蔵庫で時間をかけて発芽させているそう
給食は、メニューが先に決められているもの。リンデンホールでは、管理栄養士さんが翌月収穫される野菜を農園の方に伺ってから、和食の献立を考えている。オーガニック給食は、献立に合わせるのではなく、旬の食材に合わせるという杉本さんの言葉が印象に残った。
リンデンファームのトマト。
地元で採れた野菜とご飯にお味噌汁が付いている
カツオとイワシ、サバなどで出汁をとったお味噌汁は、柔らかくて優しい味。畜産環境問題の観点から、乳製品の使用は控えられている。子ども達が学ぶ、世界規模の森林伐採や大気汚染、水質汚染などの問題が、自分たちの「食」とつながっていることと矛盾がなく受け入れられる。
3月まで調理に使っていた牛乳やチーズもやめ、カルシウムは大豆製品、小松菜、シラス、ゴマなどから補っているそう。
田植えの様子
子供達の田植え体験も日本の食育には欠かせないものだ。稲刈り後の藁は敷地内にある陶芸の電気炉で焼かれる器の釉薬にしたり、注連縄づくりをしたりと、日本の文化・伝統を学ぶ機会になっている。
専門家の指導で完成した器は桐箱に入れて卒業の記念に
カタチが不揃いな野菜を、6人の調理スタッフ全員できざんだり、手間暇をかけてつくられているオーガニック給食。規模にもよるが、学校給食センターで使われている大型の機械は、洗って乾燥させることが大変。それを考えれば、手間は変わらないそう。当然のように思われていたことに、様々な逆転の発想が加わっていく。
学校法人都築育英学園理事長の「都築明寿香(つづき あすか)」さんは、「環境に配慮したオーガニック給食を継続し発展させていくため、次への挑戦もやれば必ずできる、と皆で話し合って決めています。人間も自然の一部であり、体は食べるものからできていますからね」と語る。
広々とした敷地内には水車やお茶室、アスレチックなどがある
環境からのアプローチは、SDGsが盛んに謳われている現在、マクロ視点でも受け入れやすいのではないか。また、「リンデンホールスクール」の視察を通して、オーガニック給食の推進だけでなく、子供達の個性、多様性、豊かな自然環境、すべて輪になってつながる教育の重要性を改めて感じる機会になった。
リンデンホールスクール小学部 https://lindenhall.ed.jp/elementary/
ふくおか食育の会 https://www.facebook.com/groups/1750799675225388
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執筆者:奥田 景子 ライター(エシカルファッション、フェアトレ-ドなど)。福岡県生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業後スタイリスト。以降雑誌を中心にしたスタイリスト。社会的なことに興味を持ち、大学院で環境マネジメントを学ぶ。理学修士を取得。2013年から福岡を拠点に移してライターとして活動中。 |