マーケットで目に留まった、ピースマークを逆さまにしたようなロゴ。それが、オーガニックコットンのニットやオーガニック原料でフレグランスなどを製造・販売するマテリアルブランド「HiKEI(ハイケイ)」でした。「HiKEI」は「背景を纏うと、服はもっと愉しくなる」をコンセプトに、生産現場と消費現場の距離を近づけるものづくりをしています。
1980年代アメリカで環境保護を目的に始まったオーガニックコットンの歴史。じつは、1970年代の自然回帰、愛と平和を主唱するヒッピーファッションの中に、いまのサステナブルファッションの原型があります。(参考:米国における環境配慮型ファッションの動向)「HiKEI」のオーガニックコットンニットも、サステナブルファッションのひとつといえるもの。
「株式会社フリップザミント」の代表取締役 久川誠太郎さん
さらに「HiKEI」には、デザインのセンスとクオリティの高さを感じます。ブランドを展開する「株式会社フリップザミント」の代表取締役「久川誠太朗(ひさかわ せいたろう)」さんに、オーガニックを選ぶものづくりの「背景」をうかがいました。
オーガニックコットンを選ぶ理由とは
まず久川さん自身が、素材として「オーガニック」を選ぶことにいくつかの理由がありました。コンセプトとなっている「背景を纏う」。「纏う」というと「着る」ことが頭に浮かびますが、感覚的に「知る」ことや「感じる」ことのようです。
「お客さんのメリット何? と考えてみたんです。アメリカのニューメキシコでオーガニック栽培されているアルティメイト・ピマコットンは、シーアイランド種の遺伝子を受け継ぐ綿花。繊維が長く、油分を含んでいて質が良い。シーアイランドコットンは、化学繊維が広まる前はパラシュートにも使われていたほど丈夫という優れたものです。半袖ニットの素材で使いましたが、そんな価値あるものを提供したいですよね」
HiKEIオーガニックコットンニット S/M/L ブラック:22,000円(税込)
「一方で、オーガニックコットンは、ミスリードの情報もけっこう多いんです。オーガニックコットンが、肌に優しい、肌に良いということは、科学的に証明されていなくて。それでも、オーガニックコットンで服をつくりたいと思ったのは、環境にも栽培する農家さんにも良いという『ものをつくる責任』からです」
今回のニットでは、ウズベキスタンのフェルガナ盆地で栽培されているGOTS認証を取得したオーガニックコットンが採用されています。カウンターカルチャーやストリートカルチャーが好きだという久川さんの美意識が生かされたもの。シンプルでディテールにこだわったデザインは、普通とは違うことをやりたい、量産された既存のコットンとは違うものをつくりたいという思いで完成しました。
ところで、久川さんは熊本県菊池市出身です。オーガニックを選ぶ理由の3つ目は、有機農業が盛んな地で、実家が農家さんだというところ。
「実家ではお米を無農薬で栽培していました。その家族の姿を見て育ったこともあり、無農薬はカッコイイな、と思っていたのもオーガニックコットンを選んだ理由です」
そして、ものづくりの源流から体験したいと、実家の余っていた土地を耕して無農薬でコットン栽培を始めました。
「収穫は終わったんですが、小さなスペースで量は取れないので産業化は考えていなくて。それよりも、お客さんやアパレルの方にも生産現場に興味を持ってもらうため、都会と農地をつなぐツアーを企画しています」
種植え、植え替え、草刈りまで、すべて自分の手のみで行っているそう。
「一人で栽培するのは本当にしんどい。とくに梅雨明けの雑草にはビックリしますよ、草むしりが一番大変。コットンは育てること自体は難しくないんですが・・・。でも大変さを経験すると見方が違ってくるというか、知ることで大事にしたいという感情が生まれてくるのかな、と思っています」
HiKEIオーガニックコットンニット S/M/L グレー:22,000円(税込)
ユニセックスのニットはグレーとブラックの2色展開。薄手で、春先や秋口に着るタイプです。
「できるだけ長く着てほしい。『汚れてシミになって着られなくなる』という意見があったので、糸屋さんの協力で天然由来の撥水加工を施しています。化学薬品を使わず、ジュースやコーヒーをはじくんです。僕はスケボーやサーフィン、キャンプが好きなんですが、そんな時にも最適ですね。洗ってすぐに乾くので出張や旅行では、荷物も少なくてすみます!」
テフロンなど薬剤を使わない撥水の先端技術が使われています
コットン100%はチクチクせず、毛玉にもなりにくいためウールに比べてお手入れも楽。さらに、ホールガーメントという専用の機械によって無縫製で編み上げられています。柔らかなガーター編みで、縫い目がないので着心地と肌触りの良さが抜群です。
しっとりとした肌触り
体を動かす部分には、可動域を狭めずに動きやすくするため、ジャバラ編み状にデザインされています。
機能性がデザインの一部に
これから、オーガニックコットンでつくってみたいものは何でしょうか。
「糸屋さんや生産現場の方々との商品開発で、アウトドアから日常まで、生活に根ざした服をつくりたいです。つくり手としては、もっとオーガニックコットンの可能性を見つけていきたいし、イメージを変えていきたい。オーガニックに関心がない人にも受け入れてもらいたいですから」
久川さんは、自分の役割をオーガニックの裾野を広げていくことだと言います。また、「栽培の大変さや、糸をつくっている工場の思いを知って、それぞれが感じることを大事にしてほしい」とも。生産の背景を教えてくれる「HiKEI」というブランド。これから「HiKEI」のファンが、ますます増えていきそうだと感じました。
HiKEI https://hikei.life/
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執筆者:奥田 景子 ライター(エシカルファッション、フェアトレ-ドなど)。福岡県生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業後スタイリスト。以降雑誌を中心にしたスタイリスト。社会的なことに興味を持ち、大学院で環境マネジメントを学ぶ。理学修士を取得。2013年から福岡を拠点に移してライターとして活動中。 |