【OLE2018】大量生産のための近代畜産に警鐘を鳴らす概念。日本では遅れている アニマルウェルフェア

現在の日本で、家畜がどのような状況で飼育されているのか知っていますか? 

たとえば、日本の養鶏場の92%が、1羽あたり平均B5サイズという、狭いバタリーケージというケージ内で飼育されています。

また、鶏同士がつつき合い、傷つけるのを防ぐために行われる処置として、全体の83.7%の農場の鶏は、ヒナのうちにくちばしを焼き切られています。(参考資料:私たちの食べている卵と肉はどのようにつくられているか―世界から遅れをとる日本(前編)

豚肉用の子豚を産むための母豚の多くは、妊娠ストールとよばれる檻の中で身動きが取れない状態に置かれているそう。

 

1960年代、イギリスでルース・ハリソン氏が近代の工業的な畜産のあり方を批判する「アニマル・マシーン」という本を出版しました。そこから、家畜も人と同様、満たされて生きる(ウェルフェア)べきだという概念がヨーロッパから広がりました。

一般社団法人「アニマルウェルフェア畜産協会」によると、アニマルウェルフェア(Animal Welfare)とは、「感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な生活ができる飼育方法をめざす畜産のあり方」のこと。

 

イギリス政府が立ち上げた委員会によって、「すべての家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を」という基準が提唱されました。こうした動きを受け、劣悪な飼育環境を改善させ、ウェルフェア(満たされて生きる状態)を確立するために、次の「5つの自由」を定めています。

 

それは、1.空腹と渇きからの自由、2.不快からの自由、3.痛みや傷、病気からの自由、4.正常な行動を発現する自由、5.恐怖や苦悩からの自由です。

枝廣淳子著「アニマルウェルフェアとは何か――倫理的消費と食の安全」のおわりに、取材で訪れた環境意識が高いスウェーデンのエピソードがつづられています。それによると、スウェーデンの若い女性はベジタリアン率が高く、豆腐をはじめ、さまざまな植物性タンパク質の食材が登場していて、お肉の代わりに購入されているそう。

 

牛肉の生産は温室効果ガスを大量に排出するという温暖化への配慮と健康意識が背景にあるようです。

 

新しく「フレキシタリアン」という言葉も生まれているとか。フレキシブルという単語から生まれた造語で、厳密なベジタリアンではないけれど、お肉はめったに食べないという人たちを表す言葉です。

 

スウェーデンの国営テレビでは、アニマルウェルフェアの配慮がない農場で、動物たちがどんな飼われ方をしているのか、という番組を流し、人々は意識して卵や肉類を選ぶようになっているそう。オピニオンリーダーやメディアが働きかけて消費者の意識を変え、消費者の要望に応じてスーパーが変わっていくという好循環が生まれ、状況が大きく変わっていったということです。

 

国際的な動物保護NGOワールド・アニマル・プロテクションによる畜産動物の保護に関する国際評価では、英国やドイツはAランク、フランス、メキシコ、ブラジルなどはBランク、中国、インド、タイなどはCランクであるのに対し、日本はDランクと低い状況です。(参考資料:私たちの食べている卵と肉はどのようにつくられているか―世界から遅れをとる日本(後編))

 

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの選手村などで提供される食料のアニマルウェルフェアの基準も、ロンドン五輪やリオ五輪よりも低い水準になることが懸念されています。

 

枝廣淳子氏は、わかりやすく次のように語っています。

 

「アニマルウェルフェアは、近代畜産の現場で、家畜をできるだけ自然に近い形で飼育しよう、という取り組みです。動物たちも意識があり、痛みや苦しみを感じます。家畜が食肉として私たちの食卓に上がるまで、その過程の痛みや苦しみを減らすことは、私たち自身にとっても大事なことではないでしょうか。 また、生産効率を最大化しようとする過密飼育では、病気の感染を防ぐために抗生物質などが投与され、人間の健康への影響の心配もあります。」

 

家畜への配慮や何を選ぶかというアクションは、私たちの食の安全、健康や幸せにつながっています。

 

9月22日、23日開催のオーガニックライフスタイルEXPO【OLE2018】では、「アニマルウェルフェア&オーガニック 日本の実践者たち」ゾーンがあり、初日午後からセミナー室ではアニマルウェルフェアサミットが催行されます。ぜひ訪れてみてください、日本の取り組みの現状を知る機会になりそうです。

 

 

<参考資料>

アニマルウェルフェアとは何か――倫理的消費と食の安全

企業へのアンケート調査結果

 

 

 

 

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執筆者:奥田 景子

ライター(エシカルファッション、フェアトレ-ドなど)。福岡県生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業後スタイリスト。以降雑誌を中心にしたスタイリスト。社会的なことに興味を持ち、大学院で環境マネジメントを学ぶ。理学修士を取得。2013年から福岡を拠点に移してライターとして活動中。

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