鎌倉にある「パラダイス アレイ ブレッドカンパニー (PARADISE ALLEY BREAD & CO.)」は、自家製酵母でパンをつくっているお店。小川糸さんのエッセイでも紹介されている、噛めば噛むほど味が出てくる美味しいパン。竹炭が練りこまれたものや可愛い模様、不思議な模様など、個性的でアートなものが並んでいます。
パラダイス アレイのオーナー勝見淳平(かつみ じゅんぺい)さんは、「植物と菌の音を中心に食・体験(WS)・たいわ・即興演奏など、さまざまな角度から菌類の繁茂と鎮魂をコンセプト」にしたユニット「paradise23」としても活動しています。
3月20日(金)~22日(日)、新型コロナウイルス感染の予防に配慮されながら「paradise23 九州ツアー」が開催されました。ツアーは熊本や福岡をメインに活動する「上市場下市場」と同時開催。「上市場下市場」は、オーガニックやヴィーガンなどのお店、音楽、アート、マリオネットなど、子どもも大人も楽しくなれて、質の高い気づきを与えてくれるイベント。
リノベされた明治中期の建築物が今回の会場
21日の会場、福岡県八女市にある旧八女郡役所で、勝見さんにお話をうかがうことができました。
微生物に生かされている、菌の力を信じている。
パラダイス アレイの自家製酵母は、現在は北海道にある「たべるとくらしの研究所」理事長の安齋伸也(あんざい しんや)さんの果樹園で、偶然発酵してできたサイダーが元種になっているそう。
さらに3年前、竹炭店から分けてもらった枯草菌「バチルスF」を安斎さんの炭酸酵母と合わせるとスパーク。通称「パラダイス酵母」の誕生です。偶然が重なってできたような酵母には、自然の抗生物質のような作用も。
勝見さんとギタリストのCazU-23
勝見さんの中で、paradise23の活動は、2011年3月11日の東日本大震災の影響が大きかったようです。
「震災があって、変わってしまったものがたくさんありました。でも逆に、目指していく方向性は自分の中で変わらなかった。自分はこうやって生きていくべき、というスイッチを押された感じがしました。いま震災の時と同じように、ニュースなどで人がネガティブな影響を受けることが怖いと感じます。人がお互いに疑いがいあうことが怖いですね」
微生物の生体情報を音に変換する
「今は発酵食品が人気ですが、震災前には発酵の話なんて何もありませんでした。パンは発酵食品ですが、当たり前にあったものを見直す機会になったことは、良かったと思っています。いろんな視点で見ることができますが、問題解決に一番可能性を感じているのが菌の力です。ひとつの惑星といっていいくらい、自分たちも菌の集まりですから。免疫のはたらきなど、目に見えない菌などの微生物に生かされているんです」
「物事の受け止め方は良い方へ向かなければならない」と語る勝見さん。そして、「前向きに諦めていきたい」と。本来の「真実を見極め明らかにする」という意味で使われていた「諦める」という言葉は、とくに印象に残ります。
一連のワークショップのひとつひとつに意味があり、パラダイス酵母、ミキ、味噌、糀、ギター、参加者の常在菌のすべてが呼応する最後のライブは、以前聴いたことがある微生物の音の何倍も素敵で、パワフルに感じました。
パラダイス アレイ ブレッドカンパニー (PARADISE ALLEY BREAD & CO.)
〒248-0006 神奈川県鎌倉市小町1丁目13−10
Tel.0467-84-7203
執筆者:奥田 景子 ライター(エシカルファッション、フェアトレ-ドなど)。福岡県生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業後スタイリスト。以降雑誌を中心にしたスタイリスト。社会的なことに興味を持ち、大学院で環境マネジメントを学ぶ。理学修士を取得。2013年から福岡を拠点に移してライターとして活動中。 |