福島県飯館村の自然発生的に人が集まる場。連携し影響し合う未完の秘密基地「図図倉庫」

2023年に閣議決定されたGX(グリーントランスフォーメーション)戦略で、原子力政策が大きく見直され、再エネと並んで原子力を「最大限活用」する方針へと転換。2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震の津波で、福島第一原子力発電所の被害を受けた地域の現状が気になります。

とくに放射能被爆から住民を救う「SPEEDI」というシステムが機能せず、高濃度の放射能雲が飛来し、空気や農地、山林、上水道が汚染された福島県飯館村(いいたてむら)が、強く心に残っています。当時、全村民約6000人が村外への避難を余儀なくされました。

2023年5月には、特定復興再生拠点区域と拠点外の一部で避難指示が解除されましたが、帰還困難区域はまだ残っています。(参考:経済産業省「避難指示区域の概念図(詳細)飯舘村」)

いま飯館村では、復興に向けて農業再生、地域再生、そしてゼロカーボンヴィレッジを目指すさまざまな試みが進められています。

認定NPO法人 ふくしま再生の会は、原発事故の3か月後から現地調査と生活や産業の再生を目指してきました。その取り組みは、次世代へとつないでいくプロジェクト「図図倉庫(ズットソーコ)」へと発展。その様子を報告します。

世界に誇れるような飯館村の「図図倉庫」へ

阿武隈高地の山中に位置する
「日本一美しい村」のひとつだった飯館村

「認定NPO法人 ふくしま再生の会」は、2011年6月に村内外の多様な有志メンバーが集まって生まれました。活動方針は、「現地で、継続して、協働して、事実を基にして」。

「事故による被害を収束させる技術を国や東京電力が持たないという事実は、世界が直面する問題です。その問題に対し、村民と共感し協働しながら自分たちで調査・実験を行うという有機的な集まり。得られたデータは地域再生のために提供し、メンバーも活動範囲も広がっていきました」(参考:冊子「飯館村で、世界に触れる」より引用)

放射線を可視化する霧箱

農地や山林を調べ除染し、産業再生、村民へのケア活動を経て、リアルやオンラインでのイベントがスタート。宿泊施設や交流施設も建設されました。そして2021年、若手移住者によって「株式会社MARBLiNG(マーブリング)」が設立され、10年以上放置されていたホームセンターを改修するプロジェクトが村民たちとの協働でスタート。それが“つながりを再生”する「図図倉庫」の始まり。

名前の由来は、「図」という文字には「工夫して努力する」「目的のために工夫する」という意味があるのだとか。さまざまな人の視点を持ち寄り、次の世代に自信をもって受け渡せるような、世界に誇れるような「ずっと」つづく地域環境づくりを目指したい、そんな思いが「ずっと」という読み方にも込められているそう。

「訪れるさまざまな人々の手でつくり上げていく、場づくりもまた飯舘村の未来に向けた実験の一つ」だと考えられています。

常設展示「環境世界を旅する」の前で。
「自分の本当の人生をかけた」という、
「図図倉庫」企画運営・空間プロデュースを行う矢野淳さん

「つながりの再生」とは、分野・地域・世代の垣根を越えて、飯館村に多様な人が集まること。そして、飯館村が抱える環境問題と、これからの地域環境づくりにアプローチすること。秘密基地のような倉庫で、村民や科学者、アーティストが集い、企業や活動団体が集うシェアオフィスとしても使われています。

人と人、人と物、そして新たな商品へ。図図倉庫の中で、小さな循環の一つひとつが有機的にパワーアップしていくようです。

コワーキングスペース。カフェも併設

テナントに入っている企業や大学との連携、新しい実験・研究・挑戦には、たくさんの共感がよせられています。館内の視察ツアー、飯舘村の各所を巡るセットツアー、飯舘村の環境も食も文化も楽しむ1泊2日の環世界探索紀行、企業向けのオリジナルカスタムできる研修ツアーという4つのスタディツアー、定期開催される「ズットフィルム」という映画会も人気。

これから、園芸ブランドを立ち上げガーデンショップも企画されています。「場づくりは未完、図図倉庫は完成しない場所でもあって欲しい」という矢野淳さん。

汚染された大気と海や山。自然環境が元に戻るまでには、大変な時間がかかります。未完の図図倉庫プロジェクトに、楽しみながら次世代の先までを見通す広い視点を感じました。

図図倉庫(ズットソーコ)/株式会社MARBLiNG https://www.zuttosoko.com/

 

オーガニックライフスタイルEXPO in 東京
会期:10月2日(木)~4日(土)
会場:東京都立産業貿易センター 浜松町館
*出展社募集中です

《関連キーワード》
, , , , , , ,

執筆者:奥田 景子

ライター(エシカルファッション、フェアトレ-ドなど)。福岡県生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業後スタイリスト。以降雑誌を中心にしたスタイリスト。社会的なことに興味を持ち、大学院で環境マネジメントを学ぶ。理学修士を取得。2013年から福岡を拠点に移してライターとして活動中。

人気のWebコンテンツはこちらです

お問い合わせ