国内の多くの地域で課題となっている財政状況や人口減少、施設の老朽化など。その解決と地域活性化を目指して行政と民間の連携が進んでいます。
まだコロナ禍にあった2022年1月に、福岡県三井郡大刀洗町とアミタグループは、「地域共生社会の推進及びごみの減量並びに3R+C(コミュニティ)活動の推進に関する連携協定」を取り交わしました。
アミタグループは、資源の持ち込みをきっかけに地域内の“資源循環“と“住民同士の交流“を生みだす互助共助コミュニティ型資源回収ステーション「MEGURU STATION®(めぐるステーション)」を福岡県大刀洗町・豊前市、兵庫県神戸市、愛知県長久手市、奈良県月ヶ瀬地域で展開しています。また、持続可能な社会の実現には、生態系の特徴にならった「エコシステム社会」の構築が必要だと考えられています。
一方、大刀洗は福岡県南部、筑後平野の豊かな水田地帯にある町。人口約1万6000人。世帯数は約6000世帯で、町内に4つの小学校区があります。
小規模自治体は、地域住民との距離が近く関係性も深くなるもの。大刀洗町とアミタグループとの連携の様子を知りたく、本郷校区にある「ふれあいセンター」を訪ねました。
みんなの自分ごとが反映された「MEGURU STATION®」
訪れたのはちょうど大豆の収穫時期でした。水田にはコウノトリの目撃情報もある長閑なところ。基幹産業は農業で、スラムダンクの登場人物名で話題になった純米酒「三井の寿(みいのことぶき)」も特産品。
まず「大刀洗町役場 住民課 生活環境係」の入江由香理(いりえ ゆかり)さんから、大刀洗町の課題や取組みによって変化したことなどをうかがいましました。
大刀洗町は移住者の受け入れにも積極的に取り組まれています。
「そうですね、農地が広がる大堰・大刀洗校区と、宅地分譲、賃貸物件が多い本郷・菊池校区があり、校区ごとに特色があります。人口は本郷・菊池校区が多く、町全体の人口は微増になっています」
現在設置されている資源回収ボックス
「MEGURU STATION®」の設置には、廃棄物再生処理センター「サン・ポート」の老朽化により、燃えるごみを減らすことで炉を長持ちさなければいけないという背景もあったといいます。
「大刀洗町の燃えるごみやリサイクルできる資源(ペットボトルや瓶など)はサン・ポートに運搬し、適正に処理されています。この施設は、平成15年の4月に稼働開始し21年経っています。施設老朽化改修工事をしましたが、令和10年度以降に建て替えの予定となっていて、現在、関係市町村で協議を重ねています。
平成26年度から、ごみ行政、子育て支援、防災などテーマを決めて、住民の方が自分ごととして、町の状況を知り自分にできることを考え課題解決を目指す『住民協議会(自分ごと化会議)』も実施しています」
無作為に選ばれた町民478名のうち、応募した24名が自分ごと化会議の委員に。
「令和3年度の会議で改めてごみの減量をテーマに取り上げ、『これはリサイクルできる』『地球環境に良くて、地球温暖化を防止することにつながる』と、町の皆さんに環境意識を持ってもらえるよう進めていきました」
大刀洗町でも5年、6年前の朝倉の豪雨から始まって、水害が身近になっているといいます。
「ごみを減らし地球温暖化(異常気象)を防ぐことは水害対策につながっていますから、住民協議会の中で対話を重ねていきました。センター長やボランティアスタッフも交え、事例紹介として『MEGURU STATION®』を開発しているアミタグループについて話し合い、住民の方々に少しずつ自分ごととして捉えていただけるようになりました」
比較的環境意識が高かったという本郷校区
それぞれ何ができるのか、積極的な意見交換ができたようですね。
「リサイクルした方がお得というインセンティブもあります。燃えるごみの袋(大)は1袋 60円ですが、資源ごみの袋がだいたい1袋 25円なので半額以下の価格です。ペットボトルやトレーなどきれいに洗いリサイクルにまわすと25円で出すことができます。さらに『いつでも資源を出せる場所があれば、 リサイクルして燃えるごみを減らすことができる』という意見があり、『MEGURU STATION®』の需要を感じました」
令和3年度に4回開催された自分ごと化会議。その後、令和4年度に本郷校区、大堰校区、大刀洗校区、最後に菊池校区に「MEGURU STATION®」が設置されました。本郷校区のふれあいセンターには、生ごみを液肥化する装置も備え、センター内にふれあい農園もあります。
「宮城県南三陸町では、町内で発生する生ごみを回収し、液体肥料(液肥)化する装置(MEGURU-BIO;めぐるビオ)と資源回収BOXを設置することで、地域内での資源循環が促進され、地域コミュニティが活性化したという事例をお聞きし『大刀洗でもやってみませんか?』というお話をいただきました。
もともと本郷校区では段ボールコンポストに取り組んだり、リサイクルやごみの分別の意識が高く、校区センター長をはじめ、地域づくり委員会の協力もありました。皆さんのご協力をいただいて、初めて本郷校区で『MEGURU STATION®』を設置できました」
MEGURU STATION®スタンプカード
目指すのは「3R+C活動」の推進です。
「町としても、集積場はありますが『3R+C』というゴミを減らすためのリデュース・リユース・リサイクル、そして+コミュニティへの挑戦を始めることになりました。まずは、3ヶ月試してみようと、トレー2種、ペットボトル、缶2種、紙パック、雑がみ、瓶3種、卵パック、日用品ボトル、詰め替えパウチ、容器包装プラスチック、生ごみの11項目15品目に分別。生ごみも液肥化され、家庭菜園などで利用されています」
そして、可燃ごみは令和4年度3,230tから令和5年度3,197tへ削減されました。
「分別すれば、資源は燃やさなくて済みます。社会実験として初めたので、アンケートと利用状況の調査も実施しました。懸念されていた不法投棄もなく、順調に進んでいます。分別の仕方がわからないこともあるようですが、センター長やボランティアの方がサポートしています。本当に綺麗に継続できている状況です」
10項目14品目に分別
「アミタ株式会社 地域デザイングループ」の森隆史(もり たかし)さんに、「MEGURU STATION®」や地域の取組みについてうかがいました。
MEGURU STATION®の利用について
MEGURU STATION®では、午前7時から午後7時の間、いつでも無料で資源を持ち込むことができます。利用に際しては、LINEまたはスタンプカードでの登録およびチェックインを通じて、利用状況を把握しています。
令和4年1月からは、実証実験として利用を開始しました。日々の利用を通じて、利用者の環境意識が徐々に高まってきました。正式にMEGURU STATION®の運用を開始したのは2023年3月31日時点では登録者数は900人台でしたが、2024年3月31日では約1,400人に達し、順調に増加しています。利用者が増える中、各品目の分別にも積極的に取り組んでいただき、リサイクル活動が進んでいます。
身体と自然の循環が同じだと感じる
生ごみからつくる液肥
MEGURU-BIOを使った循環型社会の実践
生ごみを液肥に変えるMEGURU-BIOは、地域の方々に積極的に活用していただいています。ふれあいセンターの敷地内にある「ふれあい農園」では、MEGURU-BIOで作られた液肥を使って、季節ごとの野菜を育てています。春や秋には、地域の方々と一緒に野菜の植え付けや収穫を行い、収穫した野菜を使ったピザを焼くなど、地域との交流を深める活動も行っています。
家庭から出た生ごみが液肥として再利用され、その液肥がまた野菜を育てるという循環の仕組みを知ることで、住民の環境への意識が高まり、リサイクルや資源分別に対する意識が変わります。実際に現場を見て、参加していただくことで、これが「自分ごと」として実感できるようになり、地球温暖化防止もより身近に感じられるのではないかと思います。
液肥を使って栽培されたふれあい農園の野菜
さらに、農家さんや家庭菜園で余った野菜を地域の皆さんでお互いに譲り合い、地域コミュニティの活性化を目指しています。この取り組みにより、農家さんは廃棄物を減らし、地域内で野菜が循環する仕組みが生まれ、食品ロスの削減にもつながっています。このような活動は、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進にも貢献しています。
ふれあい農園で収穫した野菜でつくったピザ!
「3R+C」の本格的な取り組みへ
大刀洗町役場の入江さんによると「令和5年度までの分別の回収ボックスは、実験的なモデル事業だったのですが、令和6年度から、この実績を踏まえて本格的に取り組んでいきます」とのこと。しかし、同時に課題も上げられました。
「アンケート結果では利用していない方が約7割なので、なるべく皆様に周知をして、利用していただきたいと思います。また、世代交流の場が徐々にできてきているのですが、企業や大刀洗町役場の他部署とのさらなる連携も進めていかなくてはならないと考えています。そして、現在袋交換など、利用者さんや子ども達が自主的にやっていただいているのを嬉しく感じています。住民主体で誰も無理することなく続けていくのが持続可能なステーションに必要だと思っています」
本郷校区の交流の場「ふれあいセンター」
最後に本郷校区「ふれあいセンター」の廣木センター長にお話しをうかがいました。
本郷校区「ふれあいセンター」の役割と地域貢献
本郷校区の「ふれあいセンター」は、主に「MEGURU STATION®」を通じて資源ごみの分別回収や生ごみの有効利用を推進しています。これにより、リサイクル率が大幅に向上しました。特に、生ごみは微生物の働きによってメタンガスと液肥に分けられ、焼却場のボイラー負荷を低減することを目指しています。
また、ふれあいセンターでは、地域住民のサークル活動やお祭りなど、地域のつながりを深める通常の活動も行っており、年間で約12,000人が施設を利用していただいています。
地域住民の交流と意識向上
地域住民がふれあいセンターに資源を持ち寄ることで、自然と人が集まり、会話が生まれる場となっています。このような交流を通じて、環境問題に対する意識を高めることが目指しています。
夏には集まった人々に冷たいお茶を提供し、冬には薪ストーブで温かい飲み物やお餅、焼き芋を振る舞い、世代を問わず地域の人々が集まる場所で楽しんでいただいています。
廣木センター長のグリーンツーリズム活動
多岐にわたる役割をこなす廣木センター長
廣木センター長は、農村民泊を楽しむグリーンツーリズムにも積極的に参加しています。大刀洗町には宿泊施設がないため、都会に住む方々が農村地帯に訪れ、農村の生活を体験する機会を提供しています。これまで、横浜の高校生の修学旅行や、香港の大学生、さらには台湾の高校生(今年9月)やシンガポールのご家族(10月)など、多くの方々が訪れました。
「私たちは協議会や町と協力し、少しでも地域の活性化を進めようとしています。旬の野菜を収穫し、それを参加者と一緒に調理して食べることが、グリーンツーリズムの大きなポイントです。一緒につくり、一緒に食べることで自然と会話も弾みます」
このグリーンツーリズムは、収益ではなく、地域の魅力を伝えることが主な目的。農家の空いている部屋を使って、参加者に農村生活を体験してもらうのが趣旨です。
※例)福岡近辺から小学生43名が訪れたこともあります。
「小学生達が何軒かに分かれて宿泊し、田舎の生活を体験していただきました。私もとても楽しい経験をしています」と振り返ります。
寒い日にも人が集まって
今後、ふれあいセンターの取り組みを、子どもたちの社会科の授業の一環として活用する計画も予定されています。
廣木センター長の「楽しい」という言葉が印象に残ります。無理なく、それぞれのペースで自主的に活動に取り組んでいる様子が伺えます。大刀洗町とアミタグループの連携による「3R+C」の特徴は、そこに住む人たちが課題を自分ごと化しているところ。大きな魅力は、参加者が自由に楽しみながら活動できるところだと感じました。
これからも対話を重ねながら、新たなアイデアが生まれそうです。
大刀洗町 https://www.town.tachiarai.fukuoka.jp/opening/
アミタグループ(事業サイト) https://www.amita-net.co.jp/
《関連キーワード》
3R+C, グリーンツーリズム, ゴミゼロ, コミュニティ, リサイクル, 地域共創, 地域循環, 地球温暖化, 大刀洗町, 循環型社会, 生ごみ, 食品ロス
執筆者:奥田 景子 ライター(エシカルファッション、フェアトレ-ドなど)。福岡県生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業後スタイリスト。以降雑誌を中心にしたスタイリスト。社会的なことに興味を持ち、大学院で環境マネジメントを学ぶ。理学修士を取得。2013年から福岡を拠点に移してライターとして活動中。 |