1925年10月創業の「アルファフードスタッフ株式会社」。有機認証を取得したオーガニック食材に特化して輸入、製造・販売、卸まで行う会社です。浅井屋砂糖店としてスタートし、今では有機JAS認証を取得した工場で、世界の有機素材の袋詰めやオーガニックのお菓子づくりが行われています。
2016年にオープンしたオーガニックスーパー「ビオセボン 麻布十番店」にあるバルクコーナーの85種類もの食材の多くはアルファフードスタッフ株式会社」の買い付けによるもの。さらに、オーガニック認証を取得した国産のお菓子が少ない中、自社ブランド「Biokashi(ビオカシ)」を展開する「アルファフードスタッフ株式会社」の4代目、常務取締役を務める浅井紀洋(あさい のりひろ)さんへお話をうかがいました。
浅井紀洋氏
1983年名古屋生まれ。大学では演劇にどっぷり漬かった学生生活の後、ソフトバンクグループで転職広告の営業、伊藤忠商事で乳製品の営業を経て、名古屋に戻り2014年に家業へ入社。食を通して環境や資源の【持続可能性】を考え、課題をビジネスで解決し続けることをライフワークとしている。
オーガニック食材に転換する出来事
97年目を迎えた「アルファフードスタッフ株式会社」には、時代に合わせ事業を転換してきた歴史がありました。創業以来、事業は砂糖卸売りでお客様は駄菓子のメーカーさん。その後、1985年に国産の小麦でつくった小麦粉の販売を開始したことは、大きなターニングポイントに。
「当時輸入小麦にはポストハーベストの問題があって。その中で安心安全なものを追求したいという発想が生まれました。ちょうど北海道で、国産小麦でパンに合う強力粉が開発されたことをきっかけに販売代理店を始めたところ、卸先が駄菓子メーカーさんに加えて、こだわりのベーカリーや自然食品店、生協などに広がりました。そんな卸先の求めがあり、2007年からアメリカ産オーガニック小麦粉の輸入を始めることになりました」
2006年に有機JAS認証を取得以降、現在12か国から140種類もの素材が生産者直輸入されています。
食品ロスと環境問題にアプローチする量り売り
ビオセボンの量り売りコーナー
「アルファフードスタッフ株式会社」では、量り売りの企画提案も行われています。
「『ビオセボン 麻布十番店』さんから、これまで日本になかったオーガニック専門店をつくりたいと相談を受けました。フランスで実践されている量り売り販売を日本でもやりたいと言われたんです。
お客様にとって量り売りは、必要なものだけを買うことができて単価も安くなるので、家計の節約になると思います。紙袋に入れて持ち帰るので、環境負荷の低減やプラスチック資材を減らすことにもつながっています。年間600万トン弱の食品廃棄があると言われていますが、半分近くは家庭内の廃棄。買いすぎないことは、食品廃棄の削減に繋がるんじゃないでしょうか」
さらに、“オーガニックの食”と向き合うことで、健康増進にもなりそうです。
「オーガニックの量り売りは、人にも環境にもとくに優しい販売方法で、社会的意義が大きいと感じています」
廃棄や規格外野菜のアップサイクルBiokashi
Biokashiアソートbox【全国送料無料】:2,000円(税込)
5種のレーズンミックス60g
5種のナッツミックス60g
デーツ・イチジク・マンゴーミックス95g
生おからクッキーアソート3種×2枚
フランス語でオーガニックや生命を意味する「Bio(ビオ)」と「kashi(菓子)」を合わせて名付けられた「Biokashi(ビオカシ)」。誕生は「ビオセボン 麻布十番店」で売り場に立っていたとき、お客様の声に気づいたことから。
「売場に立って、商品のこだわりなど生産者さんの声を直接お伝えしていたんです。その時にお客様からオーガニックのお菓子って少ないですね、と言われて。確かにビオセボンもオーガニックスーパーなので置いてはあるんですが、国産のものはほとんどありませんでした。
なぜだろうって…。消費者はオーガニックのお菓子を探している。私たちもお菓子の原料にオーガニックの販売先を広げていきたいと思っています。一方で、お菓子の製造工場は、オーガニック認証のハードルが高い、販売先はあるのか、そもそもオーガニックって何? というところで踏み切れない。であれば、オーガニックの素材を使って、自社のオーガニック認証工場でオーガニックのお菓子をつくっていこうと決めました」
製造工場の様子
オーガニックのお菓子としての4つの約束があるとか。
「まずは素材が見えるお菓子であること。クッキーの原料の小麦粉はどんなところでつくっているのか。製造工場の裏側まで見える化しています。次に、作り手が見えること。どんな人がどんな思いを込めてつくっているのか、提携工場のことも公式サイトのブログなどでご紹介しています。そして、もう完全にオーガニック認証だけのお菓子であること。最後に笑顔になれること!」
そして生まれた 「Biokashi」は、昔からお付き合いのあった菓子メーカーさんともタイアップしてものづくりされています。さらには、副産物や規格外品を使った食品開発も推進されているのです。
「クッキーの生地には、豆乳からお豆腐をつくった時の副産物として出てくるおからを練り込んでいます。お豆腐の有機JAS認定第一号の生産者さん『宮島食品店』さんのおからですが、ホロホロした食感が美味しいんです。つくっていただいたのは、提携する岐阜県の長良園さん。初めてお会いして2時間後には製造工場のオーガニック認証の取得を快諾していただきました」
北海道十勝の農地
「Biokashi」は、“オーガニックかつアップサイクル”の考え方を廃棄される規格外の野菜にも活かしています。
「十勝の95haのうち33haの農地で有機栽培や自然栽培をされている折笠健さんにお会いしたんです。化学物質過敏症で野菜を食べられない子供が全国にいるから、十勝という農業の一大産地は責任を持って、その課題に取り組むべきだとおっしゃっていました。
また、お話の中で、子供の食べるものは、環境に負荷をかけないものであるべきだという真剣な思いも伝わってきました。十勝の農地の5%をオーガニックに変えていくと、周りの農家さんを巻き込んでいった方なんです。
私はオーガニックのお菓子をつくるために、いろんなお菓子のメーカーさんを回っているんですと話したら、ぜひ産地と提携して進めてくださいと。そして、いろんな農家さんをご紹介していただきました」
長良園さんの工場
ものづくりに苦労はつきものですが、「Biokashi」にも困難は多々ありました。
「長良園さんへは、規格外のカボチャでチップもつくっていただいています。カボチャのペーストに有機のジャガイモからつくられた有機片栗粉を混ぜて生地をつくっています。
ところが、日本に有機の片栗粉工場は1社しかない。その上、有機の製造は年に1日のみです。シーズンの稼働開始の初日だけ有機の原料を受け入れ、2日目から慣行農法のものでつくられていました。片栗粉を購入するためには、稼働日に合わせて有機のジャガイモを持ってきてほしいって言われて。有機のジャガイモを集め、なんとか有機片栗粉ゲットできました」
現在、有機JASの加工工場を増やすことも、浅井さんの取り組みのひとつとなっています。
オーガニックの本質に触れたクルミ農家さんとの出会い
クルミ農家のラスさん(右から2人目)
入社して9年目の浅井さんに、かつて「なぜオーガニックをやるのか」を問う、大きな出会いがありました。
「前職は大手商社で、すぐに結果を出さないと評価されないところでした。当社には、ゆっくり結果を出すオーガニックは、将来性があり向いているのではないかと思っていました。
入社した翌年、カリフォルニアのクルミ農家さんのとことろへ視察に行ったんです。クルミ農家のラスさんから『君はなぜオーガニックを扱っているのか』と聞かれ、なんとなく『付加価値かな』と答えると、オーガニックはそんなことではないよと言われて…。『私がオーガニックに取り組む理由はただ1つ、それはサステナビリティだ!』と。自分は経済や市場のことしか考えてなかったことに気づいて、ハッとしたんですよね。本当に本質がわかっていなかった」
ラスさんは、巨大ファームに植えられているハーブの意味や微生物、土の中の生態系について、ひとつひとつ丁寧に教えてくれたそう。
「この経験を機に、自分の中で新しい考えを得たんです。ああ、そんな深いのかなって。彼は一切電気を買っていなくて、すべて自家発電していると言うので、ソーラーパネルか風力かな、と漠然と思ったんですが、いずれも違っていて、クルミの殻を使ったバイオマスだったんです。
広大な敷地に植えられたクルミの殻のバイオマスなので、オフセットされてCO2も実質排出していない。その時言われたのは、電気を買うとしたら石油・石炭だよねと。かつての生物が何億年かけて炭化したものを、この数百年で根絶やしにしようとしてるんだぞ、と言われて、すごく大事なことだなと思いました」
土の中の構造が変ってしまう化学肥料を追肥するより、本来の土の力、微生物の力を生かす。それらの言葉は、浅井さんの中で改めて、オーガニックについて考えを深め、思いを具象化する力になりました。
「化学肥料・農薬に頼らないのは、オーガニックの一部。オーガニックとは、添加物を低減したアレルギーのない生活、生物多様性の保全、地域文化や人を大切にする社会の実現など包括的な考え方のこと。オーガニックの本質は、持続可能性 、サステナビリティではないかと思っています」
15年間有機JASを更新し続けている「アルファフードスタッフ株式会社」では、認証や量り売りを始める企業のフォローもしています。すぐに結果を求めずに、自然の摂理に従って生きるような企業を素晴らしいと感じました。
Biokashi https://biokashi.jp/
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執筆者:奥田 景子 ライター(エシカルファッション、フェアトレ-ドなど)。福岡県生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業後スタイリスト。以降雑誌を中心にしたスタイリスト。社会的なことに興味を持ち、大学院で環境マネジメントを学ぶ。理学修士を取得。2013年から福岡を拠点に移してライターとして活動中。 |