サスティナブルで多様な可能性の地域循環を生み出す岩手めん羊
明治時代、繊維産業とともに羊の飼育が全国に広がりましたが、現在は全国の農村地帯が「担い手の高齢化」「後継者不足」「荒廃農地の増加」といった課題を抱えています。
そのような問題を解決するのに、岩手県の羊を用いての事例が魅力的ですのでご紹介しましょう。
牧草地を生かすために
岩手県梁川(やながわ)地区は、かつては和牛の繁殖が盛んでしたが、高齢化に伴い大きな牛を扱えなくなり、畜産を廃業する農家が増加。やがて牧草地が雑草化し、転作田も含めた農地が荒廃し、問題化していきました。
当時のセンター長が「荒廃農地の解消」や「地域の活性化」を目指して、めん羊の放牧に取り組み始めました。放棄された牧草地の雑草を羊が食べてくれるのみならず、生き物がそこにいることはその地域の景観を改善しました。
さらに、羊肉をレストランに出荷してみたところ「一般的なラム肉と比べて臭みがない」と好評だったことから、食肉として本格的に出荷されるようになりました。
5月〜12月にかけて放牧し、自然交配により2月上旬から3月末に出産。オスは食用として出荷されます。
生後1年未満の仔羊肉をLAMB(ラム)、生後1年以上2年未満の羊肉をHOGGET(ホゲット)、生後1年以上の羊肉の総称としてMUTTON(マトン)とカテゴリ分けされ、何をどのように出荷するかの計画が非常に重要となってきます。
8年前から梁川のラム肉の流通・卸を担う株式会社太陽の坂口洋一さんの尽力で「やながわ羊」というブランド名で登録商標を取得し、料理人の意見を参考にして、香りや脂質感を高めたラム肉に仕立てようと飼料配合の改良に注力しています。
多様な活用方法の可能性
岩手県一関市の下大桑地区では、梁川地区と同様に荒廃農地の草刈りに頭を悩ませ、地域活性化や住民の所得向上に繋がる施策を探って、めん羊に辿り着いたそうです。
もともと岩手に根付く毛織物「ホームスパン」の伝統があり、羊毛の活用にも価値を見出されたケースです。
毎年春に刈る毛をSNSを通じて、県内外のフェルト作家やホームスパン作家などに販売。作家たちは、一頭まるまる分の羊毛を買い取り、部位によって硬さや特徴が異なる羊毛をそれぞれ合った使い方をするそうです。サスティナブルで良質な羊毛は、高級ブランドからの発注を受けるほど。
昨年からは県の「i-wool(アイウール)」事業を開始し、盛岡スコーレ高校の生徒の視察を受け入れたり、「ホームスパン」を制作する授業のサポートなども行なっています。最近では、皮も利用しようと、なめしの技術の習得に挑戦するほど意欲的で、世代間交流を図るイベントで地域を盛り上げたりもしています。
「飼育頭数100頭」「肉・毛・皮の販売拠点づくり」「観光農園として都市農村交流」などを目標に、”羊を目玉とするグリーンツーリズム構想”も視野に入っています。
お問合せ:
岩手県農林水産部流通課 TEL:019-629-5733
<写真提供:料理通信>
執筆者:ルミコ ハーモニー アーティスト・活動家。日本生まれ。フィンランド人と結婚後3児と国際的な暮らしを実践。親子で国際交流を支援するNPO法人ザ・グローバル・ファミリーズ創立者/副理事長。英語でアートをやる集団LITTLE ARTISTS LEAGUE創立者/アートディレクター。株式会社アマナ コミュニティマーケティングDiv.コミュニティプロデューサーとして多方面にて活動中。 |