人間の幸福と真の前進とは。終わらない紛争と未来のために復刻された「ハヤーティ・パレスチナ」

国連総会でSDGsが採択されてから9年が経とうとしています。

SDGsは、2030年までに戦争・貧困・飢餓をなくし、すべての子供たちの教育格差を無くすことも目標にしています。ですが、国際ニュースでは毎日のように、ウクライナやガザ地区の破壊された様子が伝えられています。

犠牲になっているのは、子ども達を含む市井の人々。ただただ、無力感が募り悲しくなる映像。

2004年に発行された藤永香織(ふじなが かおり)さんによる「ハヤーティ・パレスチナ」の復刻版が今年2月に発売されました。

この本が出版されたのは20年前ですが、現在に続く様子と臨場感あふれる筆致に引き込まれます。紛争地の人々の暮らしや価値観を知ることは、「和平」や「平和」について考える機会になります。

「ハヤーティ」とは、アラビア語で「私の人生」という意味だそう。今回はこの本をご紹介します。

何度破壊されても変わらない想い

著者の藤永香織さん
1994年イスラエル旅行。1995年よりパレスチナを訪れるようになる。
1997年よりガザ地区ハンユニスのパレスチナ赤新月社が運営する
障害児教育センターにてボランティアとして活動。
その後、パレスチナ人の自立を共に歩みたいと、
ガザ市出身の夫と現地でカフェを開業。
ガザ地区に戻れなくなり、店も破壊され、現在に至る。
2009年福岡市にてヤスミン・ライブラリー開設。
現在は闘病しながら、ガザの息子達の生存確認に明け暮れる日々を過ごす。

資源や土地の奪い合い、対立、不寛容などによって戦争や紛争が始まります。それは貧困を加速させ、環境も破壊していくもの。

1997年からガザ地区の障害児教育センターでボランティア活動に従事していた藤永さん。パレスチナ人のナセルさんと結婚したのは、2001年のことでした。

当時からガザには、資格や技術、熱意があっても仕事が見つからず、多くの人々が生活の困窮していました。絶望感や無力感とともに人生に行き詰まりを感じる大人たちと子どもたち。

藤永さんと夫は、ガザの人々には仕事が必要だと思い至り、「雇用機会の創出」のため、ガザにカフェを開店します。

日本ではあまり馴染みがない水たばこ
カフェではハンバーガーが人気だったそう!

幾多の困難を乗り越えてオープンし、従業員を雇用することができた夢のカフェ。営業は順調でした。

ある日、イスラエル軍の戦車に踏みつぶされてカフェは完全に破壊されてしまったといいます。

さらに頑張って再び開店したカフェ。その間にもイスラエル軍による攻撃や発砲によって、惨劇に巻き込まれていく親戚や親しい友人たち。

日本で講演活動を行う藤永さんは、「爆風で窓ガラスを吹き飛ばされたが、イスラエルの封鎖により、修理のためのガラスが入手できずに暮らしていたところ野ネズミが窓から入ってきて咽喉を噛みちぎられ亡くなった姪っ子の話など、普通の人々がおびえ暮らす」様子を語っています。

復刻版「ハヤーティ・パレスチナ 夢をつなぐカフェ」P133:1,500円(税込)
※本の売上はガザに送金されます。

藤永さんは、「人材や物資などの支援も大切だが、パレスチナ人が真に必要としているのは、自立できるための『仕事』であり『家族を養い子供を育て、自ら人生を築くことができる環境』」だと、強い想いを伝えます。

現在行われている多くの国際的な支援活動は、難民に特化されたものであり、ガザに住んでいる民間人は対象外という事実に衝撃を受けました。

1997年当時の写真も掲載

2007年以降、ガザ地区を支配しているハマス。イスラエルとハマスの対立は続き、ガザ地区の周囲には壁やフェンスが張り巡らされ、それは「天井のない監獄」と呼ばれています。

そこに国連機関の支援さえ受けられない人々が今も生きて暮らしていることは、物語ではなく現実です。

決して一枚岩ではないイスラエルとパレスチナの人々。藤永さんは、しめくくりに相手の立場に立って思いやる余裕の大切さを記しています。

「境遇や立場の違いを超えて同胞と本当に歩調を合わせられるようになることにもつながり、その流れがいつの日か、真の和平と独立をもたらすことにもなると信じている。パレスチナ人の自立。それこそが独立へ向けた真の前進であり、手にした『祖国』を確かなものにするのだとも信じたい」

読後には、次は自分自身のできることを考え行動したい、と思いました。

 

【本の問い合わせ先】
ヤスミン・ライブラリー 尾上光(おのえ ひかる)
090-6634-2973(尾上)
yasmeen_library@yahoo.co.jp

【ガザを知るドキュメンタリー映画】
「ガザ 素顔の日常」 https://unitedpeople.jp/gaza/ 
時間:92分
製作年:2019年
監督:ガリー・キーン、アンドリュー・マコーネル

キネカ大森(東京都)https://ttcg.jp/cineka_omori/ 
2024年8月9日(金)~8月15日(木)

シネコヤ(神奈川県)https://cinekoya.com/
2024年9月21日(土)~10月6日(日)※月火休業(祝日は営業)
映画『ガザ・サーフ・クラブ』映画『医学生 ガザへ行く』と日替わり上映

ガーデンズシネマ(鹿児島県)https://kagocine.net/
2024年8月5日(月)~8月11日(日)

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執筆者:奥田 景子

ライター(エシカルファッション、フェアトレ-ドなど)。福岡県生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業後スタイリスト。以降雑誌を中心にしたスタイリスト。社会的なことに興味を持ち、大学院で環境マネジメントを学ぶ。理学修士を取得。2013年から福岡を拠点に移してライターとして活動中。

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