フランス料理やイタリア料理とのマリアージュが提案されるようになった日本酒。海外での人気は高く、カントリーリスクやコンテナ不足の問題はあるものの、輸出は非常に好調だそう。世界から、原料となる酒造好適米に有機や環境という切口が求められ、有機米の生産農家を増やすことが課題となっています(参考:日本酒原料米の安定取引に向けた情報交換会)。
一方で有機栽培米の生産には、手間がかかり収量が落ちる可能性も。さらに農業生産の現場では、高齢化による慢性的な後継者・人出不足が続いています。
プロジェクトメンバー
(中央右は農家の綱川さん
左から2番目は中野水田除草研究所の中野さん)
そんな現状を解決すべく、日本酒と料理のペアリングを提案する日本酒のセレクトショップ「吟天 小田切商事株式会社」(以下「吟天」と表記)は、参加型SAKEづくりプロジェクト「GINTEN NatureB」を立ち上げました。有機農家の次世代をつくること、タンク1本の発注で酒蔵を応援すること、若い飲み手を増やしていくことの3つを目標に掲げています。
プロジェクト名は、フランス語の「La nature」と、輪という意味「Bague」の頭文字「B」が組み合わされたもの。2022年の米づくりは、地元農家の綱川さんと中野水田除草研究所の協力を得て、「GINTEN NatureB」の運営側5名、一般応募7名の計12名で行われています。
「GINTEN NatureB」SAKEづくりの輪
プロジェクトは「吟天」の美味しくて安全なSAKEを造ることと、それを飲み続けられる仕組み。まず、原料には大自然が残る栃木県南部の芳賀郡茂木町で栽培する完全無農薬無肥料の自然米を選びました。農家さんの圃場を借り、畑作業の経験のない若者が参加、そして各地の蔵元をつなぐ酒造り体験へとつながっていきます。
日本で一番小さなネズミ「カヤネズミ」が住む田
米の品種は、大嘗祭にも選ばれた銘柄「とちぎの星」。除草は「中野水田除草研究所」が考案した中野式除草機を採用。田植え後、5月に2回の除草だけで、夏の除草は必要ないという優れた除草機です。
雑草の根だけが伸びた状態で草取りをすることで、女性や子供の力でも十分に効果がある方法だそう。また、泥をかき上げることで水が濁り雑草の発芽を防ぐという二段階除草です。大切な水の管理は農家さんによって実施されました。
中野式除草機
ピアノ線が張ってあります
農作業で大変なのは、除草と稲刈り。そんな作業も「稲刈りが初めてのメンバーはとても生き生きと楽しんでいる様子で、いつまでも刈っていました」と様子を語っていただきました。
農家さんには大変な作業も参加者にとっては素晴らしい経験になります。苦労や驚きを共にしながら体験する自然栽培は、新鮮な喜びにつながりました。2022年9月には、台風に負けず、豊かで大粒に実った246kgのお米の収穫が終わりました。
左)GINTEN NatureB ぷくぷく醸造自然米ホップどぶろく(500ml):3,000円(税込)
右)GINTEN NatureB 自然米&あまおう(500ml):3,000円(税込)
酒造り体験では、仕込み、蔵見学、ボトル詰め、火入れ、ラベル貼りまで行われました。2023年2月に完成したのは、LIBROM(福岡市)で醸造した「GINTEN NatureB 自然米&あまおう」。そして、日本酒とクラフトビールを掛け合わせたお酒をつくる「ぷくぷく醸造」の立川哲之さんが木花之醸造所(浅草)で醸造した「GINTEN NatureB 自然米ホップどぶろく」の2種です。
ラベルはデザイナーの古川氏が手がけたもの。自然米の田んぼに住むカヤネズミのしっぽがモチーフだとか。カヤネズミは、雑草や虫を主食とする自然米栽培の小さな応援団。しっぽの絵柄は、稲穂や水流、田など、様々なマークをパッチワーク。2つ並べるとハートに見えるデザインも、自然と人とのふれあいを表しています。
第2ステップから、飲食店の参加が予定されています。今後開催予定のイベントやアクティビティは、たくさんの参加者の出会いの場にもなりそう。楽しみながら行われる「吟天」の酒造りのコミュニティーの輪。新たな日本酒を造り、その魅力を伝える若者達の活躍が期待されます。
GINTEN NatureB https://ginten.tokyo/gintenchefsake/project/1
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執筆者:奥田 景子 ライター(エシカルファッション、フェアトレ-ドなど)。福岡県生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業後スタイリスト。以降雑誌を中心にしたスタイリスト。社会的なことに興味を持ち、大学院で環境マネジメントを学ぶ。理学修士を取得。2013年から福岡を拠点に移してライターとして活動中。 |